★MAIN★

□死闘
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翌朝、リークがタワーズキャッスルで住み込みになることをフラットから聞かされる。

「デュエルの特訓だよね…?」

「うん。でもそんな付け焼き刃であの人に勝てるなんて思えないよ…」

「………」

ベッドから立ち上がるルナ。

「リーク先輩…」

「赤井も今回のことは反対だよね?」

「………正直羨ましいです。そこまでリーク先輩に想ってもらえるなんて」

「そういえばファンクラブは知ってるのかな。兄さんの休学について。動機が動機なら」

いじめの標的にされるのは、もちろんルナだ。

「少なくとも、剣士科の人は知ってるのでは?」

男子が圧倒的に多いクラスだが、女子も少なからずいる。それにリーク目当てで所属してる女子もいる。

「いや、兄さんは僕にだけ伝えた。そして、赤井、クロフォードだけが知っている。いいね?」

「はい」

すると、透から呼び出されフラットは寝室を出る。

「リーク先輩よっぽど切羽詰まってたのね。住み込みするぐらいだもの」

「血を提供する側が紅龍なんです」

「紅龍って…あの紅龍よね?」

平和の象徴とも言える伝説の紅龍。彼とデュエルをするのだ。改めて、リークが勝てる見込みが薄いことを感じる。

「デュエルは従兄弟以外にはすべて勝ってます。先輩はその従兄弟の方に行ったらしいですが…」

「従兄弟?」

「女王のお兄さんです」

城でいくらか見たことがある。物腰が柔らかでとてもデュエルをしそうなイメージがない。それに彼は吟遊詩人だ。

「あの人に?」

「ある事情で、剣士をやめたそうですが」

「…………」

















一方、リークは瑠宇に起こされて和純と城内の掃除に励んでいた。

「いつも、こんな朝早くから掃除してるんですね」

「うん。昔からのくせだよ。向こうの城ではずっと掃除夫だったから」

王族育ちの彼だが、闇一族の血が流れているが故に蔑視されていた。

「あからさまだったよね。血が繋がってるだけでのけ者にされたりした」

額に欝すらと傷痕が残っている。

「……俺、一度女王を切り付けたことがあるんです」

「知ってるよ。雅也から聞いてたし」

「あの時は、闇一族イコール黒髪で赤目だった。女王は昔向こう側だったと本人から聞きました」

出会った時のことは、いまでも覚えている。

「雅也さんは地上世界に連れ出してくれたと。あの人にとっての彼は太陽だったと」

玲奈ばかりではない。スクールを編入した当初は誰にも馴染めなかった自分に、気さくに話し掛けてくれ、同好会に誘ってくれた。いわば、和純にとっても雅也は太陽みたいな存在だ。

「だからこそ、今玲奈は苦しんでいるんだろうね。見合いの話も出るけど、すべて断ってるみたい。お父様はお父様でその苦しみを少しでも和らげたいみたいだけど」

「俺の立場で言うのもおこがましいですが、無理に勧めないほうがいいと思います。女王はまだ雅也さんを忘れられないなら尚更。もちろん後継ぎ問題もありますが…」

玲奈の子供が出来たら、その子が後継者第一候補になるだろうと考えるリーク。

「いや、王族なら誰でもいいみたいだよ。ジュニー王族は、お父様の代まで1000年候補が出なかった。これは伯父様がタイムスリップした故にだけど…」

「前に一緒に戦った、あの人は…」

「純平さんだね。トニー王族が代々続いてるのなら、そちらに代を移したかもしれないね。伯父様の奥さんはハルX世だし、礼さんも爽さんも王位を継承していない」

「いや、爽さんは向こうの世界に行った」

つまり、継いでいてもおかしくはない。

「それはないよ。もしそうなら書籍の血統書に書いてあるはずだから…」

「ですよね…」

一通り終えると、王室に向かう。王室には、瑠宇の両親と瑠宇と娘の瑠唯が待っていた。

「おはようございます。ネウロ国王」

「おはよう。今日から働きに来てくれたんだね?」

柔らかな笑みを向けるカール。瑠宇と瑠唯の銀髪は彼から受け継いだものだと言える。どうやら、住み込みの件しか話してないようだ。

「わざわざ休学までしなくてよかったのよ?遠くはなると思うけど…」

カールの隣に座る弥生。

「メイドも臣下もいない。父さんの意向もあるんだけど、びっくりしただろ?」

「こら、瑠宇。ここは寂れた城だといいたいのか」

クリスタルキャッスルと比べると規模もなにもかも違う。

「で…でも、それで成り立つならいいと思います」

「確かにね。この町の住民は未だに僕らだけだし。寂れてるよね…。もちろん呼び込みはしてるんだよ。でも、住みづらいみたい。クリスタルキングダムみたいに、春夏秋冬が楽しめるわけでもない。トニーズキングダムみたいに、商業も発展してないし、アクアマリンキングダムみたいに、景観もないし」

塔ばかりでとても景観はよくない。

「それにここはクリスタルの保管所でね、王族以外には立ち寄ってはならない場所だった。だからかな…」

「それなら分かる気がします」

タワーズキャッスルはそれほど厳正な場所なのだ。実際、世界の審判を下すのはこのカールにある。

「でも、寂れてるよなぁ」

何かを思い出したのか、立ち上がるリーク。

「確か、ここは昔龍達の島でしたよね。分離した島が飛龍の里。なら…」

「居場所は分かる」

「飛龍の里に何か用でも?あそこは、厳格な竜王が住んでいる」

「…あの…」

「この際だから言います。俺は大切な人のために血を輸血させなければならない。しかもそれは四龍の血限定で…」

つまり、闇雲ウイルス患者を抱えていると言いたいのだ。

「それで彼に血の提供をしてもらうために飛龍の里へ行くわけだね」

「はい」

朝食を済ませると、朝風呂に行くリークと和純。

「なんとか濁せたみたいだけど…あまり言わない方がいい」

「迷惑をかけたくないからですか?」

「うん。皆よくして下さるけど、僕はあまり頼れない」

苦しげに笑う和純。

「もちろん、瑠宇はちがうよ。彼女は血筋関係なく僕を愛してくれているから」

きっと人間不信なのかもしれない。リークが感じた和純の影の部分は昔、受けたものからなるのだろう。

「じゃあ玲奈さんが信じられるのは?」

「今は、誰もいないと思う。僕は彼女が16の時に初めて出会ったし、その時は手を出されたからね」

雅也の制止がなければどちらかがキズモノになっていただろう。

「玲奈が心から身を委ねられる人が現れたらいいのに」

「…………」

「本当は君に執事になってもらいたかった。でも君の思慕は玲奈じゃなかった。玲奈も君なら大丈夫だと…」

「雅也さんに似てるからですか?いくら彼でも成り代わりはごめんですよ」

脱衣所に着き、衣服を脱ぐ。

「そっかぁ。そうだよね。ごめんデリカシーなかった」

隣にいた和純を見ると、顔つきに反して意外と体つきはよく、腹筋もうっすら割れていて筋肉のバランスがいい。

「ねぇ、リーク」

「なんですか」

「傷だらけだね…」

腕を捕まれる。手足だけでなく背中も傷だらけなリーク。

「俺、センスないのかもしれません。剣豪部にも所属してるけど…」

センスがあるないの話ではない。傷だらけゆえ、何回も練習を重ねているのだろう。

「なるほど。じゃあ基本は分かってるんだね」

「えぇ」

「じゃあ、何を聞きたい?」

「…あの人の弱点」

直接的な言葉に、閉口する和純。

「ご、ごめんなさい」

「いや、普通攻撃傾向とか、何を使うとか聞かれると思ったから」

「あぁ」

「弱点…弱点というよりなんだろう。僕も本能で戦うから、気がついたら勝った…みたいな」

「天性なんでしょうね…」

「でも最初は全然手も足も出なかった。それに僕は、君が始めた歳より遅かった。世界が混乱したから、やむを得ず戦うしかなかったけど、ずっと平和だったら剣すら握らなかっただろう」

シャワーを浴び、湯舟を浸かる。

「君は将来何になりたい?」

目を見開くリーク。

「恥ずかしながら、なりたいものとかそういうのはっきりしてなくて…」

「恥ずかしがらなくていいよ。僕も瑠宇と出会う前は、漠然としてたし」

顔を見合わせるリークと和純。

「それに、今は自由だし何にでもなれる。無理矢理、これになると思って未来を縛りつけるのはよくないしね」

「柔軟なんですね。考え方が」

「優柔不断だと思うな。僕はたまたま瑠宇がいたから、ここに行くことを決めただけだし…」

成り行きでそうなったのだ。

「じゃあ俺もルナ次第なのかな…」

「…さあね。それは君次第でもあるから」

「なら尚更、あいつを死なせるわけにはいかない」

15の少年らしからぬ凄みを持った目つきだ。

「いい目をしてる」

「へ?」

「今の君は未来のために一生懸命だよ。だから、いい目をしてる」

客観的に見ても負け試合にも近いデュエルを挑むのに、彼の目は見据えている。

風呂から上がると会議室に場所を移す。特訓メニューを手渡す和純。

「今日から一週間はウォーミングアップ。どれくらいの力があるか見てみたいし。その後はミーティングや講習。そしてラストの一週間は実際に僕と闘ってもらう。いいね」

「はい…」

「後、君に決定的に足りないものはね」

急に頬が強張る。

「経験。練習はしたことあると思うけどデュエルはしたことはない。そうでしょ?」

「…はい」

「従兄さんは場数を踏んでる。最初の動きで相手の攻撃傾向が分かるみたいなんだ。先手を打っても打っても、ひらりとかわされるしね」

いくら素早くとも、礼はそれを無効化できるのだ。

「じゃあ力は?」

「あるよ。じいちゃんはたいしたことないって言ったけど。それにこれは瑠宇から聞いたけど、毎日鍛練してるって。竜王になったその時からずっとね」

「…おっかない人相手にするんですね。俺」

「何を今更。その条件を呑んだのは他でもない君なんだから」

苦笑するしかない。

「さて、ミーティングもここまでにして早速一度デュエルしようか」

「え、もうするんですか」

「安心して。本気は出さないから」

そう言うと、和純はリークを連れて地下室に向かった。地下室に着くとレイピアを手渡される。すると、急に目つきが変わる。

「始めようか?」

慌ててレイピアを構えるリーク。お互いの視線を捕らえる。リークは和純の気迫に負けないように、睨み返す。


「1」


お互いへレイピアを相手に向ける。射抜くような眼差しに、空気ががらりと変わる。


「2」


レイピアを地面に垂直になるように、天へ穂先を向ける。


「3」

しかし、一向に動こうとしない和純。

(出方を待ってるのか?)

「あれ、来ないの?」

「あ、はははは…」

「ならこちらから行くね」

次の瞬間、和純の気配が消える。













一方ルナは変装を続けて、藤波の授業を受けていた。

「先生」

手を止めるルナ。

「どうかされました?」

「香純さんが危篤になったときどんな気持ちになりましたか?」

一度思考が停止する。

「…そうですね。せまりくる喪失感が尋常ではなかった。きっと徳川さん達がいなかったらその場から逃げ出していたでしょう」

「先輩は逃げ出したのかな…」

拙い手つきで、ルナを撫でる。

「逃げ出したならデュエルは受けないよ。ただあの子はあの子なりの考えがあるだけ」

「先生、もし香純さんが死んだなら…」

「二度と私は人を好きにはなれない」

すると何かを思い出したように、ルナは見上げる。

「だからなんだ…」

「え?」

「女王が結婚なさらないのは」

「私とは立場も境遇も違いますが」

「そこまで入れ込まれるなんて、香純さんが羨ましいです」

「それが唯一でしたから」

藤波は奥のカーテンを開く。すると、無数の紙があり、それはどれも絵が描かれていた。

「これは…?」

「リハビリです。足は完全に動かなくなりましたが手はかろうじて動きます」

ゆっくりと指を動かす。

乱雑に置かれたその絵。しかしその手で描かれたとは考えられないほどの、繊細な筆遣い。

「いつか言ってましたね。リークのために似顔絵が描きたいと。実は私ももう一度、妻のために描きたいのです」
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