★MAIN★

□死闘
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「了解です」

頑固な彼からすれば、不本意だったに違いない。

「ですが…俺は…」

「あくまでも駆け引きなしで行きたい。そう言いたいのかい。いいかい?これはルナの命を賭けたデュエルだ。自分だけのデュエルではない」

「それなら尚更、小細工はしたくない」

それは暗に和純が小細工して勝ったと言っていることになる。隣で黙って聞いていた瑠宇は間髪入れずにリークの頬を拳で殴り飛ばした。

「瑠宇!!」

「馬鹿にすんな。小細工ごときで礼は負けないし、和純もそんな真似はしてない」

「………」

睨み上げるリーク。瑠宇も睨み返す。

「礼も和純も、お互い精一杯力を出しきっただけだ」

「そうです!」

振り返るとそこにはいない筈の景が立っていた。

「礼さんがどんな思いで、デュエルを言い出したか分かりますか?本当は血を提供なんてしたくなかった。でも、失ってからは遅いからと悩んで悩んだ末に出された結果なんです」

「景…」

「どうしてここに?」

「フラットから青龍の血を頼まれました。青龍は喜んで血の提供をしてくれました」

「あいつ、俺に反対だった筈じゃ…」

デュエルは危険すぎると言って、別の方法を考えると言ってたはずだ。


「ルナがどうしてもって、頼んだのよ。私の病気が治れば、他の患者も治せるだろうから」

だが、そうなれば礼の正体が明かされてしまう。

「もちろん、闇一族の血筋は残ってる。しかしその上で、患者が判断してくれたらいい」

「フラット!!」

「兄さん、黙ってて悪かったね。今回は手を貸すよ。薬だとあと半年はかかるみたいだし、それじゃあ間に合わないしね」

苦笑するフラット。

「あと、デュエルのことだけど、何か忘れてない?」

首を傾げる一同。しかし、リークはすぐに思い出した。

「魔法を使っても構わない。でも、お断りだ」

「言うと思ってた。じゃあどうしたらあの人に勝てると思う?」

「隙をつくしかないだろ」

目を細めるフラット。

「ご名答。つまり、持久戦に持ち込むしかない。兄さん、極力大技は使わないこと。大技はここぞと言うときに使う」

「なるほど、いい案だ」

「いくら最強である礼さんでも、疲れが出れば、隙も出てくる」

「でもいいんですか?旦那さんが負けるのを見るのは」

フラットに言われて、微笑む景。

「簡単には負けないと思いますが、一度だけ負け試合がありましたからね。だけど、一度負けた屈辱がある故に、さらに強くなっているのも事実」

誰もが絶句する。

「紅龍は平和を象徴する四龍だけれど、その背景には、敵には非情かつ容赦しないという二面性を持ちます。別名鬼神。戦神マーズとも言われており、四龍の中でも攻撃的な性格を持ちます。トランスすれば、彼は人間体であれどもその性質に従います。もし勝ちたいのであれば、トランス前に先制攻撃を打つか、トランス後の疲労まで待つかでしょう。もちろん後者は貴方も相当な疲労感に襲われますので、お勧めしません」
一気に言い終えると、ため息をつく。

「本当なら、仲間同士で戦ってほしくなかった…」

それが景自身の本心だろう。リークは良心が痛んだ。

「フラットの方法に従えば、あんた達を巻き込むことはなかった…」

「いや、そうとも言いきれない。いくら人工的に生成すると言っても、オリジナルの成分が分からなければ意味はない」

フラットが言うにはどちらにせよ四龍を巻き込んだだろうということだ。

「その場合、僕があの人と戦うはめになってただろうね」

「フラットじゃあ、さらに無理だわ。魔法使いは本来、剣士系には有利だけど、礼さんはそれさえも無効化してしまう」

「どうやら魔法で攻めるのも、無理みたいだな。となると…」

短期決戦か持久戦しかない。

「リーク」

「和純さん?」

「それ次第でメニューを決める。どちらも対応できるようにするには時間が足りなさすぎる」

いずれにせよ、一か八かの賭けなのだ。

「フラット。ルナの容態は?」

「確実に悪化の傾向にあるね。いつ危篤状態になってもおかしくない」

俯く。いまこうやって悩んでいる間にも、病魔は彼女の体内を浸食していくのだろう。握り拳を作り、下唇を噛むリーク。

「なら、短期決戦だ」

「…分かった。景さん、わざわざ忠告ありがとう。礼さんが心配してるだろうから、帰った方がいい。フラット、君はリークの代わりにルナを看ていてくれ」

「分かりました」

それぞれ帰路に向かう。そして、和純はリークの手を見る。指と手の平の間に豆があり、所々血豆になって痛々しかった。

「今日のウォーミングアップで?」

「違います。クラブ活動でこうなりました」

長期休暇以外は、入学以来剣豪部の朝練と放課後の練習はかかさなかった。それゆえに生傷も絶えなかったのだろう。

「瑠宇、包帯を」

「ん」

瑠宇は倉庫から包帯を持ってきた。そして、リークの手に巻き付けた。

「こりゃあ痛んで、攻撃もできない筈だ。しばらくはミーティングに絞った方がいい」

「しかし、それじゃあ間に合いませんよ」

瑠宇の気遣いは嬉しかったが、間に合わなけれは元も子もない。

「本調子で行かせたいからね。勝ちたいなら尚更」

「…でも」

「怪我人とデュエルさせるのは、向こうにも悪いし、フェアじゃない」

あくまでもフェアな戦いにしたいのだ。

「じゃあ、俺の豆が治ったら…」

「その時は実戦再開だね」


















1ヶ月が経った。花咲ける街も徐々に新緑に変わる。そして血豆も完全に治り久しぶりに和純とのデュエルに勤しむリーク。ミーティング効果もあってか以前よりスムーズな動きになっていく。

「飲み込みは早いみたいだね」

「緊急事態ですから。そう悠長に過ごしてられません」

さらに金属特有のぶつかる音が鋭くなり、キレが良くなっていく。しかし、和純相手だといくら短期決戦を仕掛けようとも、負けるか良くてドローなのだ。

一度手を止める和純。

「まだ相手の出方を伺ってる癖が治らないみたいだね。短期決戦は相手の動きを読むことよりも、相手に自分の動きを読ませない方が先決。君の場合、短期決戦は向いてないね」

「…しかし…」

あくまでも短期決戦の方向で行きたいのか、納得がいかない様子だ。

「それにね、礼さんの十八番なんだよ。短期戦は。たまたま戦った相手が強かったから持久戦だっただけだけど、最初の彼は動きも読ませてくれなかった」

彼と初めてデュエルした時、手も足も出なかったらしい。座り込むリークの肩に手を置く。

「君は長期戦向きだ。この歳にしてはスタミナもあるし、精神的なバテも少ない。今からでも遅くないと思うよ?」

「………でも、決定的な技がないんだ」

弾き飛ばすほどの力はあるはずなのに、イマイチ決まらないのは、それが原因だ。

「例えば壁に追い詰められてレイピアを振り落とされた場合、君はどうする?」

「壁に追い詰められてるので、逃げ道はない。だとすればそれをレイピアで受け止めるしかありません」

「そうなるよね。じゃあ次ね。弾き飛ばされそうになった時は?」

「逆に弾き飛ばす。それしか打開策はないでしょう」

目を細めて、微笑む和純。

「正解。君は礼さんの技を相殺していけばいい。もちろん、日々の筋トレと柔軟も重要になっていくだろうしね」

「なるほど…」

勝つためのヒントが見つかったのか、内心うれしくなるリーク。


その瞬間だった。和純の表情が強張る。

「和純さん!?」

「通信機から聞こえてきたんだけど…」

「誰と連絡を?」

「フラット。どうやら、ルナが倒れたらしい」

「…いつ、どこで」

詰め寄るリーク。さっきの柔らかな表情が一転する。

「今さっき城内で。今、中川先生が看てるらしい。でも、思わしくない状況らしくて…明日が峠を越すか越さないかの状況だ」

血の気がなくなりよろけるリークをなんとか、支える和純。

「リーク。うろたえてはだめだよ」

つまり、礼とのデュエルを今すぐしろと言うのだ。

「無茶だ。実戦も何もしてない俺がいきなりあんな…」

「リーク。いままでの積み重ねが崩れるわけがないだろ?瑠宇、早く手配してくれ」

共に地下室にいた瑠宇は、リークの手をとり、地上に出る。

「いいから捕まってろ!!」

リークを背負ったまま、トランスし離陸した。瑠宇は猛スピードで礼達のいる飛龍の里に向かった。リークは振り落とされないように彼女の背中を堅く握った。











一方、透からルナの意識が戻ったと伝えられたフラットは、真っ先に彼女のいる診察室に向かった。

「ルナ!」

「もう…ダメみたい。向こうで聞いちゃった。明日が峠なんだってね?」

「簡単に諦めないで」

やつれたルナの身体を抱きしめる。

「死んじゃだめだよ。兄さんの似顔絵描くんだろ!?」

首を横に振るルナ。彼女の手はペンを握ることすらできなくなっていたのだ。

「こんなんじゃ…描けないよっ」

すると、そばにいた藤波が動けない筈の両手でルナにスケッチを手渡した。

「描きなさい。貴女は描くために生まれたんです」

この1ヶ月彼女の絵を一番見てきた彼だからこそ言えるのだ。

「後悔したくないんでしょう?」

「後悔…したくないです」

「なら、そのスケッチブックに彼への想いをぶつけなさい」

明日死ぬかもしれないルナに言うべき言葉ではない。だが、彼の言っていることは、正論だ。後悔するくらいなら、やってしまえばいい。フラットはすぐに棗を呼んだ。

「ジェット機貸してもらえませんか?」

「いきなりなんだ」

「今から飛龍の里に向かいます」

「知らないと言ってるだろう。それに危篤寸前のルナを連れていくなんて非常識にも程があるぞ!」

「棗。行かせてあげよう」

棗の肩を叩くのは、輝だ。

「居場所なら礼の通信機にあるGPSが教えてくれる。ただ運転手が必要だけど、ライセンスのある人っていたっけ?」

皆、顔を見合わせどもライセンスがある人間は見当たらない。

「どうしよう。青龍は会議で忙しいと言うし…」

すると、景の父である戸川幸次が突然やってきた。

「ハル国王」

景が退位してから、復位したのだ。しかし、どうしてこのタイミングに現れたのかと、首を傾げる一同。

「景から連絡が来た。ルナを連れてこいと」

「景さんが!?」

「で、景さんは今どこに?」

「門の外に待機してる。ただし定員は2名様までや。ルナちゃん、誰に同伴してもらう?」

ルナの答えはすでに決まっている。

「フラットくんで」

「フラットくんはどうなん?」

「ルナの意思に従います。もちろん、ルナの容態が悪化した場合は、ジェット機に担架と中川先生を乗せてください。お願いします」

「了解」

ルナはゆっくり起き出す。そして、その体で正装のドレスに着替える。フラットはボサボサの髪を綺麗に調えて、彼女の頭にピンクのカチューシャを乗せた。そして、低めのハイヒールを掃かせて、彼女と共に景が待つクリスタルキャッスルの外門に向かった。

すでに景は龍となっていて、すぐに2人を乗せて離陸し始めた。フラットはルナの体力の消耗を極力減らすために横たわらせ、着くまでの間、寝かせた。
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