短編集

□始まりの音
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「はい。鋭児郎にもあげる」


カバンの中から爆豪くんにあげたものと同じラッピングを施したクッキーを取り出した


「お、ありがとな!」


それを見ていた三奈ちゃんが羨ましそうに見ていたので

余分に余って持ってきた別のものを差し出すと

すごく嬉しそうに持ち上げて
友達の待つ自分の席へと帰って行った


「けど、俺なんかしたか?」


教科書を貸してくれたりした後は

いつもクッキーを作って渡していた


今回もお礼の意味で爆豪くんと鋭児郎に作ってきたのに

鋭児郎は片手で受け取ったまま
考え込んでいた



「だって保健室まで運んでくれたの鋭児郎でしょ?」


貧血で気を失ってしまったけれど
耳に微かに鋭児郎の声が聞こえていた

軽々と私を持ち上げてくれるのも
幼馴染の鋭児郎じゃなきゃおかしい


親しくもない人がお姫様抱っこなんてするわけないから


「あれ、俺言わなかったか?
来瑠実を保健室に運んだのもブレザー掛けたのも爆豪だぜ?」


ぱちくりと何度も瞬きをした


ブレザーの件は爆豪くんだと教えてもらったけど

運んでくれたというのは初耳だったから



「…まじか」

「おう、まじだ」


爆豪くんの方を見れば
私があげたクッキーを手にじっと見つめていた



一つちょうだいとねだる上鳴くんに
爆豪くんは目を釣り上げて無言の圧力で睨んでる



思えば抱き上げられたとき

鋭児郎にしては優しさがなかったというか
力強かったというか


私が歩けないぐらいうずくまると
ふわりと抱き上げてくれてたのに

あの時はがっしりと抱き寄せるみたいな感じで



「大丈夫か?顔真っ赤だぞ?」



そう鋭児郎に言われた時には
自分でも分かるくらいに体中が熱くなっていた


あの時触れられた腕や足の感触が
蘇ってきて恥ずかしくなる


鋭児郎に抱き上げられても
慣れたことだったから


こんな風にはならなかったのに



このどうしたらいいのか分からない感情で

ふと爆豪くんの方を見れば



いつから見られていたのかパチリと目が合った


ふっ、と私に微笑んだその顔に



何かが始まる音がした
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