短編集

□始まりの音
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くらっとよろめいて
廊下の端にうずくまる


月に一度訪れる
女の子にとって魔の1週間

お腹も腰も痛くて
更に貧血ときた



「鋭児郎…っ」


携帯の連絡帳を開いて
幼馴染の名前を探す


この調子じゃどうにか保健室まで歩くなんて無理

困った時は頼りになる鋭児郎に助けを求めようとした



「おい」


ふと目の前に誰かの上履きが見えた

誰だろうと見上げた拍子に目眩を起こして
倒れ込む


そんな私を誰かが抱き止めてくれて
体が宙に浮くのを感じた


遠くで私を呼ぶ聞きなれた声を感じながら

耳元で鳴る心音がなんだか心地よくて
私は眠る様に気を失った


















「あ、」


1-Aの教室の扉を開けようとすると
手をかける前に突然開いて声が出た

向かい合う様な形で
目の前には鋭児郎の友達の爆豪君が
目を見開いて立ち尽くしてる


「お、来瑠実!
体調もう大丈夫なのか?」


その後ろからひょっこりと顔を出した鋭児郎が
爆豪君の肩を掴んで前に乗り出してくると

固まってしまった体が解ける


大丈夫、と返して
持っていた制服のブレザーを差し出した


「これ返しにきたの」



それは保健室で目が覚めたら
お腹にかけてあったもの


リカバリーガールから
私を運んでくれた人がそうしてくれたと言われて

そんなことをしてくれたのは
鋭児郎だとすぐにわかった



その予想通り
目の前の鋭児郎だけはブレザーを着ていなかった



「お、おう…」


鋭児郎はそれを受け取って
何故かちらりと爆豪君を横目で見ている


「…もう歩いて平気なんか」


不思議に思う私を他所に
爆豪君が口を開いて一瞬戸惑った


爆豪君といえば
他人に無関心でいつも悪態をついているから

たいして話したことなんてない彼が
私の心配をしてくれるなんて意外だったから


「薬飲んだら良くなったよ」


そういえばフン、と鼻を鳴らして
私の横を通り過ぎる


「おい、爆豪!」


鋭児郎は爆豪君を追いかけずに
私の前であたふたとしていた


「鋭児郎?さっきからどうしたの?」


なにかモヤモヤとしているみたいで
私を見つめて何かを伝えようとしているみたい



「あのさ、」

「オイこらクソ髪ぃ!」


言いかけて爆豪君の声に遮られた

1人でどこかへと歩いていたのに
振り返ってすごい形相で睨んできてる


「でもよぉ爆豪…」

「余計なこと言ってねーでさっさ来いや!」


なにか急いでいるのかも、と
お邪魔らしい私は
鋭児郎に一言またねと言って
そそくさとその場を去った
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