短編集

□PM6時のファーストキス
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付き合い始めて半年

初めての彼氏


最近私は思い悩んでいることがある






「来瑠実さん!今日も綺麗ですね」



今日も大きく手を振りながら
後輩であるリエーフが私めがけて走ってくる

長い足ですぐに私の元へ辿り着くと
勢いよく私に抱きついた

私の頬に頬擦りをするその姿は
人懐っこい大型犬のよう


たまに付き合ってるのかと聞かれるけれど

私の恋人はリエーフではなく
同じクラスの孤爪研磨だ


彼と付き合っていることは
秘密にしてるわけではないけれど

わざわざ言うことでもないと2人で話して
聞かれたら言えばいいという結論に至った


だから何も知らないリエーフは
これでもかと私に対する好意を隠さない



最初は研磨がいるからと
リエーフと距離をとっていたけど

研磨はこういうのに特に何も思わないようで




私も私で面のいい後輩に懐かれて嫌な気持ちになんてならないため
今ではこの奇行を受け入れている




「やだちょっとリエーフ汗まみれじゃん」


けれど今日だけは違う

研磨に借りた教科書を返そうと
部活中のバレー部に顔を出したのがいけなかった


いつものように抱きついてきたところを受け止めようとしたけど

その濡れた肌と服に思わず突き飛ばす


「すみません
つい来瑠実さんに会えた喜びが大きくて」

頭をかきながら
ほんのり赤く染めた面のいい笑顔を向けられると
仕方ないなと許してしまう


これが山本だったら首を絞めていたことだろう


「何か用事」

リエーフの可愛い笑顔につい顔が綻んでいると

研磨がタオルを差し出してきた

「借りてた教科書返しにきたよ」

お互い交換するみたいに渡して受け取れば

研磨は私から目線を逸らして小さくため息をついた


「別に今じゃなくても…」


借りたタオルで湿った制服を拭く手が止まる


最近の研磨は冷たい


私といる時にため息をよく吐くようになって

目を見て話してくれることも少なくなった


私は少しでも早く研磨に会いたくてこうして来たけど
研磨は違うみたい

これがいわゆる倦怠期というやつなのかな


「来瑠実さん今から帰るんですか?」


私だけが感じるこの嫌な空気感を
リエーフが無邪気な心で断ち切ってくれた

「いや、今日図書当番だから下校時間までいるよ」

「じゃあ今日一緒に帰りませんか」


期待に満ち溢れた瞳が私を見つめている

リエーフのことは嫌いじゃないけど
流石に彼氏持ちが他の男と帰るのは気が引ける

けれど断ったらこの可愛い生き物は
さぞかしショックな顔をするのだろう



なんて言おうかと戸惑っていると

リエーフが私の手を握ってきた


「ダメ、ですか?」


エメラルドの美しい瞳が私を射抜いた

これは確信犯に違いない

分かっててやっているんだと
私の心が折れそうになっていると

研磨がもう片方の私の手を取って抱き寄せた


その光景には他のバレー部も目を丸くしている




「だめ、俺のだから」





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