短 編
□1番は・・・
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「ロー!」
久しぶりに海面に浮上した船の甲板で
クルー達が鈍った身体を動かすために手合わせをしている。
それを、見守るでもなく、ただ眺めていたローの耳に
愛しい声が自分を呼ぶのが聞こえた。
振り返れば、パタパタと走り寄ってくる可愛い笑顔。
走ってきた勢いをそのままに、躊躇なくローの胸に飛び込んでくる。
しっかりと受け止めてやれば、可愛い笑顔はさらに嬉しそうな笑顔へと変わった。
「終わったのか?洗濯。」
「うん、終わったよ。すっきりしたぁ♪」
潜航中に溜まっていた洗濯物を全て洗い終え、一仕事終えた彼女は、それはそれは清々しい笑顔をしていた。
「よくあんなに簡単に、船長の懐に飛び込めるよなぁ。」
2人の様子を見守っていたシャチがふいに呟く。
「ルカか?」
「あぁ。長年一緒にいる俺たちだって、なかなか近寄らせないのに。」
「それは男と女の違いじゃないのか?」
ペンギンが笑いながら答える。
「でもよ、酒場の姉ちゃんだって、向こうからは近寄らせてなくなかったか?」
「シーッ!そういう話はすんな!ルカに聞こえたらどうするんだよ!」
ペンギンの忠告に慌てて2人を見るが、
ルカは相変わらずローの腕の中で、ニコニコと何かを楽しそうに話している。
ルカにローの女関係の話を聞かれたら、それがいくら過去の話でも、どういう反応をするかわからない。
最悪の場合、ルカには大泣きに泣かれるは、ローには大激怒されるはで
まず間違いなく、命の保証はないだろう。
ハァと安堵のため息を付くと、話題を元に戻す。
「あんな簡単に懐に入れるなら、もしかして、ルカって船長やれちゃうんじゃ・・・。」
「ばぁか。船長がそう簡単にやられるわけないだろう。」
「でも、相手はルカだぜ?いくら船長でも油断すんじゃねぇか?」
確かに、ローが今1番心を許しているのは間違いなくルカだろう。
ルカがローを大好きなのは、誰が見ても明らかだし、
ローもルカには甘すぎるほど甘いのも、わかりきっていることだ。
ルカが急に心変わりでもすれば、なくはないことかもしれない。
しかし・・・。
「・・・あの船長がルカの心変わりに気付かねぇはずねぇよな・・・。」
「あぁ。それに、ルカが心変わりするなんてこと自体、ありえねぇだろうな。」
なんとも意味のない会話をしていることに気がつき、2人はハハハと苦笑いを浮かべる。
「やっぱり"好き"だからなのかなぁ、あんなに簡単に飛び込めるのも、それを許しちゃうのも。」
「それなら、俺だって船長好きだぞ。」
「は・・・?ペンギン、お前いつからそういう・・・?」
「あほか!そういう意味なわけないだろ!」
パコーン!とペンギンの突っ込みがシャチの頭にきまる。
「いってぇ・・・。
でもまぁ、確かに、俺も船長のことは好きだな。」
「だろ?まぁ、俺の方が好きだけどな、お前より。」
「ハァ?何言ってんの?俺の方が好きに決まってんじゃん!」
シャチの反論に、ペンギンがキッと睨みを利かせる。
シャチも負けじとペンギンを睨んだ。
「お前より俺の方が船長と付き合い長ぇんだよ!」
「付き合いの長さなんか関係あるか!俺の方が船長と一緒にいる時間は長い!」
「んなことあるわけないだろ!」
大声で言い争いを始めた2人に、ルカがローの腕の中から視線を向ける。
ルカの気持ちを逸らされたことに若干の苛立ちを覚えながら、ローは言い争いを見守っているベポへ近づいて声を掛けた。
「何やってんだ、あいつらは。」
「なんか、どっちの方がキャプテンを好きかって争ってるみたい。」
「なんだそりゃ・・・。」
あまりにもくだらない理由に、ローが頭を抱える。
「・・・ロー、そういう趣味・・・。」
「あるわけねェだろ。」
ルカの言葉を即座に否定し、グシャグシャと頭を撫でる。
ルカが髪を直している間にローは2人に近づくと、2人の頭にゴチンと拳を落とした。
「ッテ!」
「ツ〜〜〜!」
悶絶している2人が、頭を押さえながら見上げると、そこにはローの怒った顔があった。
「せ、船長・・・。」
「くだらねェことで言い争いしてんじゃねェ!」
ローの雷が落ちて、2人は思わず目を閉じる。
「ったく、ルカに変な誤解させるようなことすんな。」
そう言うと、ローはルカの元へと戻る。
見上げてくるルカを見て、何か思い付いたのかニヤリと口角を上げた。
「お前らに教えといてやる。」
「?」
「俺を好きなのは、こいつが1番だ。こいつより俺を好きな奴なんかいねェ。
わかったら、無駄な言い争いに労力を使うな。」
その言葉に喜んだルカが、もう1度ローに抱き付く。
ローはルカの肩を抱くと、船内へと歩いていった。
残されたペンギンとシャチ、ベポを始めとするその他のクルーは、それを茫然と見守る。
「・・・今、さらっと惚気たよな・・?」
「あ、あぁ、たぶん・・・。」
ローを好きなのも、ローが好きなのも、
1番はルカだっていうことを改めて認識させられただけで、
2人は本当に無駄な労力を使ったような気がした。
「やっぱり、ルカなら船長やれるかもな・・・。」
「そうだな・・・。」
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