オメルタ劇場

□真夏ノ夜ノ夢
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――室内に水音が絶え間なく響いている。


それは大地を潤す緩やかな雨音ではなく、荒波が岩肌にぶつかるような激しく、そしてもっと淫靡で粘着質で生々しく淀んだ音。
ぬちゅ…ぐちゅっと、体内の奥深くから響く卑猥な音は途絶えることなく、俺は拘束された不自由な手でシーツにしがみつきながら、もう随分と長い時間同じ音色を聞いていた。
体内に受け入れさせられた男の灼熱の楔が一糸纏わぬ俺の躰を内部から容赦なく焼く。
パシンッパシンッ…と互いの肉と肉がぶつかり合う度に、そこから生じた不埒な熱が全身に広がり、俺は喉を震わせながら普段は決して出すことのない甘く濡れた声で嬌声を上げ続けていた。
上半身をベッドに伏せて腰だけを高く上げ、全てを晒け出した無防備な姿は、まるで自分より強い存在に牙を抜かれて平伏する獣そのものだ。
幾度となく送り込まれてくる腰使いは、獰猛で手加減を知らない男らしく、弱くなるどころか勢いを増し俺から体力を根こそぎ奪う。
激しすぎる律動に揺さぶられて疲弊した躰はとっくの昔に悲鳴を上げていたが、俺は俺を思うがままに蹂躙する男の欲望に必死に応じた。
ボロく、いまにも壊れそうなベッドが二人分の重さに耐えきれず、ギシギシと不吉な音をたてている。
俺を貪る男の息づかいが、妙に大きく俺の鼓膜を揺さぶり、男が興奮していることを如実に伝えてくる。

「おい、旨そうにしゃぶってねぇで、ケツを締めやがれ。緩んでるぜ!」
「んッ…ふくぅっ、…ッあぁ」

膝立ちで背後に陣取る男の大きな手に尻を揉みしだかれ、俺は太股を大袈裟なほど震わせながら後孔に力を込めた。
それは自分の首を自分で締めるに等しい行為だが、俺はそれでも懸命に男の物を精一杯絞りあげる。

「…はあァッ、…あっ、…あ、ぁあ"っ…!」

ただでさえ立派な質量を誇る男のものが俺の中でまた容積を増し、俺を狂わせる。
もう限界まで昂ぶっていた俺のモノが男に突かれる度に、痛い程に張り詰めていく。
俺の竿が時折シーツに擦られ、その摩擦から生じる感触が、俺をさらなる懊悩へと追いやる。

「ぁ…、やっ…、はぅあッ」
「…あぁ、良く締まるッ…食い千切られそうだぜ。この締まり具合、堪らねぇっ…もう病みつきだな…」

俺の背後で下卑た笑みを浮かべながら、賛辞なのか卑下しているのか分からない男の言葉を、俺は背筋を駆ける快感と共に受け流す。
初めて俺を抱いたときに締まりが抜群だと男が称賛した俺の下の口に更に食い付かれ、そうする様にと命じた男が肉食獣の様なギラついた視線を俺に浴びせた。
どんな顔をしているかは見えないが、それでも俺には手に取るようにわかる。
きっと男のもので感じている俺を卑下するような眼差しをしながら、酷く愉しそうな笑みを浮かべているはずだ。
――俺の記憶の始まりを支配する男。
網膜や記憶にはこの男の記憶が焼き付いている。
凄絶な人生を物語るかのような傷跡が刻まれた見事な体躯を最大限に利用し、興奮も露わに全身に汗を帯びながら男は穿つ力を強めた。

「はっ…!いいぜ、そうだ。くくっ、嫌だ嫌だってわめき散らしてたくせに、随分と感度がいいじゃねぇか、JAP Jr.っ!!」

男に勝手に名付けられた己の名を呼ばれ、俺は官能的な男の声に触発されたかの如く自ら男の動きにあわせて腰を振り、男を悦こばせた。
まるで盛りのついた雌犬の様な醜態だ。理性が残っていれば己の浅ましさを恥じるところだろうが、俺の脳は、苦痛すらも色欲の二文字にすり替えていきーーー俺は訳もわからず、この行為に没頭する。
狭隘な筒に猛った屹立を嵌め込まれて、苦しいはずなのに、その苦痛のなかに俺は確かな悦楽を感じてしまう。
嫌で嫌で、遮断したくて堪らない感覚なのに、身体に刷り込まれた記憶は驚くほど簡単に、その甘美な陶酔を俺にもたらしてくる。
ほぐしてもらえなかったというのに、俺の蕾は強引な挿入にも従順に男を受け入れて、そして悦んでいた。
一方的に貪られているだけなのに、俺はこの行為に抗うすべを持たない。

過去、昼と言わず夜と言わず、俺はこの男の気まぐれで犯されていた。
場所も様々で、室内に限らず、男が望めば野外で行為に及ばれたことだって少なくはない。
逃げ出したくて、こんな屈辱を与えられるのが嫌で、本気でこの男から逃げようと思ったが、成功したことは一度としてなかった。

いつも以上に今夜は執拗だ。
多分、明日に控えている狩りに興奮しているのだろう。

今なら――本気でこの男を殺ろうと思えば出来るかもしれない。

歳月と共に俺は成長し、少しばかり筋肉も着いてきた。
勝率は以前より上がっているはずだ。が、結局俺は、すんでのところで躊躇し、結果、この男を殺れない。
手は手錠で繋がれているし……いや、例え手錠で繋がれていなかったとしても、俺はこの男を仕留められないだろう。
過ぎ去った過去のように…今も変わらず。

微かに、男に組敷かれていることへの屈辱感が俺を苛んだが、それはすぐに霧消してしまっていた。
男に穿たれてあられもない声を上げている自分に嫌気が指すし、心の隅で嫌だと反発する気持ちもあるが、結局は気持ちいいと感じている時点で俺はこの行為を受け入れているのだ。

「…ぅふっ、……んぁ、ぁあぅっ?!


男の息遣いが荒くなったのを背中に感じる。
ドクンッドクンッ…と、激しく波打つ脈動とともに、内包した男のものが嵩を増した。
男に骨が砕けそうな程の怪力で腰を掴まれーーー突き込みが重量感を増す。

「いいぜ…ッ、…ははっ!…最高だっ!」
「…ぁあっ、……はぁっ、…ンァっ、あ、ぁあっ」
「くくっ、なんだ?今にも噛みつきそうな目をして。悔しかったら俺のを食いちぎってみろよ」
「…やぁあっ、……くっ、…あっ、はぁァッ」

食いちぎれるものなら食いちぎってりたいが、そんなことが可能なわけがない。
俺と違い、余裕すら感じられる男の態度が俺に焦燥感をもたらす。
限界まで男のものが張り詰めているのがわかるのに、なかなかイッてくれない事がもどかしくて堪らない。せめてもの意趣返しに、渾身の力を込めてどんなに搾り取ってやろうと努力すれど、奴はイッてはくれない。このままでは奴がイクより俺が壊れる方が早い気がする。
普段は二度ほどで満足して抜き去るくせに、今日はそうじゃない。
本当に今夜はいつになく執拗だ。
多分、こいつは俺の中が擦りきれても構うことなく欲望をむさぼるだろう。そんなのは考えただけでゾッとする。永遠の苦痛など誰も望むわけがない。
例えそこに隠しようのない喜悦が混じっていようとも、だ。

「…あうぅっ、……ひふっ、……ぁあっ、あっ、あっ…」
「…てめぇの中はめちゃくちゃ熱いな。溶かされちまいそうだ」
「あっ、…だったら、もうっ、焦らさないでくれっ…!」
「…あ?なんか言ったか?」
「……いいからっ、もうっ…早くっ!早くしてくれっ!!」
「生意気だな。誰に向かってそんな口を聞いてる?あ゛ぁ?!」

ドスの効いたその低い声音に俺は反射的にひっと喉をならした。火照りすぎた身体から一瞬血の気が引き、ビクッと身体が震えた。
銃を持ち、幾多の死線をくぐり抜け、生と死の狭間を何度も行き来して恐れと言う感情をついぞ感じたことはなかったが、俺は恐怖を感じた。

――刷り込まれているのだ、こいつにだけは本気で逆らうなと。

心臓が煩いほどに鼓動を早める。
男は俺の怯えを見てとり、ニヤリと嗤った。

「俺はお前に教えただろ?ほしいものがあるなら自分で取りに行けと。例え他人のものでも奪えばいいと!待ってたって誰も与えてなんてくれねぇぜ?欲しけりゃ俺に任せてねぇで、自分でもぎ取ってみせろ!」
「ーーーひっ!…ぁあっ、…あっ、…ぁアッ…く…ぅぁあぁあっ!!」

興奮のせいで上擦った男の傲慢な言葉の意味を飲み下す事も、ましてや逆らう暇もなく、内部の凝りを鋭くひと突きにされ、俺は声にならない声を迸らせてーーー射精した。

「…あっ、……っ、…は…ぁっ、はぁっ……」

身体の力が一気に抜け落ち、俺は間延びした声を情けなく紡いだ。
いつ達してもおかしくない状態ではあったが、前立腺を抉られるというなかば強制的な射精に軽く放心していると、動きを止め傍観していた男がやれやれと落胆したようなため息をおとした。

「おいおい、俺の許しもなく勝手にイキやがったのか?……図体だけはでかくなったってのに、そう言うところはちっとも変わらねぇなぁ?全く、俺はお前をこんな早漏に仕込んだ覚えはないんだがな?」
「……ぁっ、……はぁっ、……はぁ……っ」

言い返したいところだが、生憎と俺にはそんな余力は残っておらず、ひたすら荒い息を吐き出し続けていた。呼吸がうまくいかず、身体が痙攣したように震えっぱなしになる。
屹立の小さな孔はヒクヒクと小刻みに喘ぐように、だらだらと体液を絞り出すようにして垂れ流していくのを、棹を伝う滴の生ぬるい温度で察知する。
幾度も吐き出していたせいでもうほとんどなく、体はぐったりと疲弊している。
酸素が行き渡らない脳は飽和状態に陥り、何も考えられない。このままゆっくりとベッドに体を委ね、何もなかったかのように眠りたかった。が、下がりかけていた俺の腰がまた、宙に浮き、俺は焦って背後を顧みた。
背後にいる男の顔は涙で霞んだ視界では捕らえることができなかったが、見なくてもどんな顔をしているか位は想像がつく。男はきっと爪痕が残る双眸を愉しそうに笑ませて嗤っている。

「ちんたら出してんじゃねぇよ。ほらっ、さっさと腰ふって奉仕しやがれ。いつまでも待たせるな。俺はまだ出してねぇんだ」
「…?!やぁっ、あっ、頼むッ少し待っ……ぁあっ、あっ、……ぁあっ!!」
「どうせもうたいして出すもんなんか残ってねぇだろうが。ほら、サボってねぇでケツ上げろ」

達したあと、脱力した身体を下から突き上げられ俺は腰を高く上げた。双丘にパシンっと平手が飛び、俺は仕方なく腰をふりたてる。
弱々しく腰を繰り出す俺を男が喉奥で嗤う。
気遣っているわけではないだろうが、突き上げるだけだった男の動きが内部をこねるような緩やかなものにかわる。
激しさだけでいえば突き上げられるよりはマシだったが、達した直後の神経が研ぎ澄まされた状態ではどのみち辛かった。

「…ふぅうっ、……んっ、あっ、……ぁあっ、はぁァッ」


全身に凄まじい電流が駆け抜ける。
襞が粘液を纏ってヌチヌチとうねる。
捏ね回される動きに、ぐちゅぐちゅと、耳をおおいたくなるような音が酷く大きな音となって室内を満たしていく。
過ぎたる快感は苦痛と変わらず、俺の目からまた涙が零れていく。
俺の口から唾液がこぼれ、それと一緒にみっともない哀願がこぼれ落ちた。腹を内側から圧迫され息が苦しい。

「…ぁあっ、もぉ、終わらせてくれっ……頼むから…お願いだから…アンタをくれよっ…」
「…くくっ、自力じゃ無理なら今度はおねだりか。そんなに欲しいのか?ペニスだけじゃなくケツからも精液ダラダラ溢しまくってるくせに、まだ欲しいって?」
「……ああ、そ、うだっ!こんな……じゃ、足りないんだ。もっと…一番奥に……っ!!」

俺の痴態を当て擦られ、カッと体温が跳ね上がらせながら、俺はひたすら嗚咽めいた声を漏らした。シーツに額と頬を擦り付けて、無様に乞う。
意識が朦朧としてくる。
いっそ気絶してしまえば楽だろうに、その逃げ道が俺に示されることはない。
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