オメルタ★獅子と狼

□一人より二人で
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「……また、か……」

カーテンの僅かな隙間から日が差し込むのを見るともなしに眺め、JJは嘆息した。
あれは朝陽だとJJは抵抗して見たが、間違いなく太陽は空の一番高い位置に陣取り、紛れもなく昼だと告げてくる。
今まで決して規則正しい生活とは言いがたい生活を送っていたが、流石に昼に起床などと言うだらしの無い生活では無かったと自負している。
殺し屋と言う職業柄、深夜遅くに仕事に向かい、任務が完了するのは午前さまな事だって珍しくない。
だが帰宅後は睡眠を取り、少くとも昼まえには起きていた。
なのに、最近は仕事の有無に関わらずねるのはいつだって明け方近い。
「………」
JJはしばし、この嘆かわしい怠惰な昼起き生活に至った原因を考え、そして隣で眠りこけている男をおもむろに見やった。
連日連夜、JJを自室に引き込んでは思う存分彼を味わい、満足した獅子は今、健やかな寝息を立てて熟睡してる。
だが、遅すぎる就寝だったとはいえ、流石に寝過ぎだ。
「おい、瑠夏。もう昼だ。いい加減起きろ」
無駄と知りつつJJは瑠夏の肩を揺すって見たが、反応はない。
眠れるキングシーザーの獅子は、女はもちろん男だって思わず見惚れる逞しい体躯を惜しげもなくさらし、爆睡中だ。
「どれだけ寝れば気が済むんだ?」
JJは一人呟き、幸せそうな瑠夏の寝息を聞きながらベッドを這い出た。
「……痛ッ、……ぅ」
足を床に下ろし、いざ立とうとして、腰を襲う激痛にJJは顔を顰めた。
痛みには並以上に耐性があると思が、見かけ以上に疲れ知らずな男に促されるまま、精魂付き果てるまで延々と愛を確かめ合ったのだ。JJとてなかなか立派に引き締まった無駄の無い体躯ではあるが、瑠夏が相手なら当然の結果だ。なるべく腰に振動を与えないようにゆっくりと、バスルームに向かう。向かう途中、交互に動かしていた足の間から、トロトロと粘液が太腿を伝って床におちてゆく。
JJは顔を顰め、そして少し歩調を早めて、使い慣れた瑠夏専用の浴場のドアをあけた。昨夜から既に何も身につけていなかったので、当然脱衣所は素通りだ。
蛇口を捻りシャワーのお湯を浴びて汗を流す。双丘の間にお湯が入り込み、少しのお湯でもかなりの刺激を与えて来る。仕方がないと観念する。だが、一方で、この痛みは安堵を与えてくれていた。

『愛する人に出会えば、君だってきっと変わります。愛する人の温もりが、どれだけ素晴らしくかけがえの無いものかをね』

いつだったか、エピローグバーで飲んでいた時に話の流れでマスターにそう言われたことがある。
愛だ恋だのと流動的で不確かなものなど、この世の中で一番胡散臭いとおもっていたのだが…。
瑠夏に出会い、闇を抱えつつも飄々として、肩肘を張る事の無い自分らしい生き方と、マフィアのボスに相応しい大きな器にいつのまにか惹かれていたらしい。
自分に無いものを持っている者に人は惹かれるのだと聞いた事があるが、確かにそうかもしれないと思う。
今まで一人で生きていたし、誰かに縋りたいとか支えてもらいたいなどと考えた事も無い。
なのに、瑠夏に出会い、良くも悪くも変化があったようだ。


瑠夏に出会った事でJJは独占欲や嫉妬と言う名の感情をはじめて知った。
瑠夏はファミリーに分け隔てない愛を注いでいる。
特に若手幹部の霧生礼司のことを格別視していた。
瑠夏は霧生を何処に行くにも連れ歩き、新参者のJJから見ても気に入りである事は一眼で分かったくらいだ。

別に誰が誰を気に入ろうと関係ない。
以前のJJなら、まず間違いなくそう思っただろう。
だが、いつしか瑠夏はJJにとって特別な存在になってしまったのだ。
そうなると瑠夏の想いが分散されるのが酷く辛くなり、そして我慢できなくなって……瑠夏を自分一人のものにしたくなって頼んだのだ。

『俺だけを抱いて欲しい』

拒絶されても仕方ないと思っていた。
だが、その願いはかなえられた。

『いいよ、これからは君だけを愛そう』
瑠夏はJJにその言葉を贈り、そしてその誓いを彼は守り抜いてくれている。

元々色事に人一倍精力的な男だから、いつよそに目を奪われるか気がきではない。

だが連日連夜、瑠夏の愛を独占しているのは間違いなくJJだ。

JJは、シャワーでぬれた自分の身体をそろりと撫でた。
肌の至る所に瑠夏の付けた印がある。
そして、痛みが。

この甘い痛みが消える事がないようにと、JJは柄にも無く何処かにいる神に祈り、浴場を後にした。

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