オメルタ★獅子と狼

□裏切りの烙印、血の掟
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ーーー「JJ、何処かへ出かけるのかい?」

自室を出て階段を下り、玄関まであと数歩と言うところで背後から声を掛けられ、JJは振り返った。
JJの漆黒の双眸に、金色の髪と青い瞳がひときわ似合う美丈夫がニッコリ微笑む姿が映る。
昼になり、ようやく目覚めたらしいキングシーザーのボスは、その肩書に似合わぬ屈託のない明るい雰囲気があり、JJもつられて微かに口元に笑みを浮かべた。

「ちょっと必要なものがあってな。散歩がてら出かけてくる」
「それは奇遇だな、ボクらもちょうど出かけるところなんだ。良かったら近くまで送っていくよ?」

送っていくよ、と言いつつ運転するのは横に控えている霧生だろう。今も、じっと瑠夏の側に寄り添うように佇む彼の掌には愛車のキーが握られており、握った拳から鍵の先端が覗いている。
瑠夏の申し出を受けて、途中まで乗せて行って貰っても霧生は文句は言わないだろうが、別に急ぎの用事と言うわけでは無い。
霧生を引き連れていると言う事は、彼らは恐らく仕事で出かけるのだろう。
ならば、尚更邪魔してはいけない。
「ありがたいが、たまには歩きたい気分なんだ。そっちは仕事だろ? 俺に構わずしっかり仕事して来いよ」

じゃあな、と背を向けて再び歩き出したJJの肩を、瑠夏が後ろからがっちりと掴んだ。
背後から肩越しに顔を息がかかる程近くまで近づけてくるが、霧生の視線を感じ、やんわりとその手を外させる。瑠夏はやれやれと苦笑し、JJの身体をくるりと反転させて視線を合わせた。

「JJ、もしかしてボクらに気を使ってるのかい?だったら、ファミリーの間に遠慮はいらない。霧生だってちょっと寄り道するくらい別に問題無いだろ?」

話を振られ、霧生は瑠夏にこくりと頷き、次いでJJを見てふんと鼻を鳴らした。

「急ぐわけじゃ無いから、乗っていけ。お前はまだここらへんの地理に詳しく無いだろう。迷子になられたら、探しに行かなくてはならなくなる。そうなると余計な手間がかかって返って迷惑だ」

言葉こそ嫌々と言った感じだが、表情は至って普通だ。素直に乗せてやると言えないところが、不器用な霧生らしい。
だが、JJはやはりその申し出を断った。

「ありがたいが、本当に大丈夫だ。近場にしか行かないから直ぐに戻る」
「そうかい? じゃあ気をつけていっておいで」

いってきます、と言う代わりにJJは後ろ手に手を降り、今度こそ玄関のドアをくぐった。
敷地を抜け、門を抜けると見張りのファミリーが立っており、JJは短く労いの言葉をかけ、邸を後にした。

邸から遠ざかり、誰の視線も感じない所まで来て、JJはふぅっ、と一つ息を吐いた。
自然と、肩の力が抜けて行くのを感じる。

(こうして一人で出かけるのも久々だな)

人通りの少ない道をわざと選んで進みながら、JJはふと思った。

フリーの殺し屋として生計を立て、常に自分だけを信じて行動していたのはまだ最近の事なのに、いまではそれが嘘のように、自分の周りにいつだって他人の気配がある。

最近では何処に行っても必ずそばには誰かいて、仕事に行くのもチームを組まされたりペアで任されることが多く、単独で行動する事が目っきり減った。最初の頃は他人と一緒に行動すると言う事に、酷く違和感を感じたものだが、だいぶん受け入れられるようになった。
元々組織に向かないと自負していたから、慣れるように自分なりに歩み寄る努力はしているつもりだ。
……が、それでも、まだ1人で生き抜く事に慣れたJJは心から馴染めきれてはいない。

己の背中を自分以外の誰かに預けて戦い、そしてまた自分も誰かの背中を任せられる。
それが組織の遣り方なのだろうと割り切って接して来たつもりだが、正直まだ違和感が拭えない自分がいる。
別にファミリーと言う形態が嫌いなわけではないが、今までと勝手が違い過ぎて、他人と一緒に何かを成す事に時折、煩わしさを感じたりした。

ーーだからだろう、今日みたいに、たまには生き抜きに1人で出かけたくなるのは。

瑠夏には必要な物を買いに行くといったが、特に行くあてがあるわけではなかった。
気の向くまま、とりあえずJJは歩を進めた。長くすらりと伸びた両脚を前へ前へと進め、肩で風を切る。JJの髪をなでゆくそれは、僅かに冷気を含んで冷たかったが、天気は上々で歩くのには問題ない。

JJは青く晴れ渡る空を眺め、羽織ったコートの裾を靡かせて、大通りに出るとその人混みに身を投じた。
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