オメルタ★狼と愛犬

□二度目のバースデー
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「でもやっぱり…ちゃんと礼くらいは言いたかった。…俺なんかの誕生日を祝ってくれてるのは、キングシーザーのファミリーくらいだからな。あいつらの気持ちを、無下にはしたくない」
「お前らしいよ。瑠夏たちも、霧生が嫌がることを分かっていても、お前のことが可愛くて仕方がないから毎年盛大に祝いの席を設けているわけだしな」

霧生は大切にされているなと、JJは心底思った。
JJが霧生に対して抱いている感情とは違う、もっと別の暖かな想いを、霧生はファミリーから沢山もらっているのだ。
自分の愛しい恋人は他者からの信頼も厚く、それだけファミリーから必要とされていることに、JJは自分の事のように嬉しく、そして誇らしくすらある。


「見てみろよ。お前に届けられたプレゼント。すごい量だから山になってるぞ?」

部屋の端に、邪魔にならない様にと積み上げられた色とりどりの包装紙でつつまれたそれらをJJは顎で示した。
霧生は起き上がり、ベッドの上に胡座をかいて視線だけをそこに向けた。
去年より多い様に感じるのは、気のせいでは無いだろう。
部下を従え、随分と無茶な事をしたことも少なくないから当然恨まれてもいるだろうと思うが、それでも年々増えて行くプレゼントの数は、積み重ねた信頼と信用の証でーーーちょっぴりこそばゆい。

「包装紙だけでかなりの古紙がでそうだな」
「おいおい、本当は嬉しいくせに。素直にありがとうって言っとけよ」
「ふんっ、まぁ、ありがたく受け取ってはおくがな」
「全然素直じゃないな。で、どれか開けて見たらどうだ。取って来てやるぞ?」

霧生はそうだなとプレゼントの山を見た。
青い包装紙のやつにしようか、それともやたらデカイ黄色のヤツも気にかかる。

「なんだったら、全部持って来てやろうか?」

JJの声に、霧生はそうだったとうっかり失念していた事を思い出した。
唇がニヤリと持ち上がる。次で霧生はJJをにーっこり見やった。

「じゃあ、まずはーーー からにする」
「ん?どれだって?」
「だーかーら、お前のからにするって言ったんだ」

言って、霧生は手をJJに突き出した。ほれほれと、指先を曲げげ催促する霧生に、呆気に取られたJJは苦笑するしかない。

「まだ、俺はプレゼントをお前にやるとはいってないんだがな」

嘯くJJに、霧生はしたり顔を崩さない。自分に関係ない人間の事になるとわりと薄情だが、不器用で無愛想ながらもJJはちゃんと仲間を大切にする男だ。
ボスの誕生日もパオロや石松の誕生日にもきちんとプレゼントを用意していた男が、自分へのプレゼントを用意していないはずがない。

「ふんっ、ちゃんと用意しているくせに今更何言ってるんだ。ほら、とっとと渡せ」
「おい、もっとムードとか必要なんじゃないのか、こういうのは」
「煩いな。ごちゃごちゃ言ってないで渡せと言っているだろ」
「なんだか…色気もそっけもないな…」

JJはやれやれと肩をすくめーーー

「ほらよ。たいしたもんじゃなくてもガッカリするなよ」

ポケットに手を突っ込んでゴソゴソとそれを取り出して、霧生の手に乗せた。
霧生はそれでいいんだよと、目を細め、渡されたプレゼントを見た。
包装紙で包まれたそれは、長方形をしていて、ポケットにはいるくらいのわりと細いモノだ。重さも軽い。

「開けていいか?」
「どうぞ」

自分からねだっておいて今更聞くのもどうかと思うが、JJは開けてみろと許可を出す。

霧生が包を丁寧に剥がすと、中からはベルベット素材のシンプルだが、高級そうな箱が出て来た。
霧生はそれをパカっと開け、中から出て来たそれに、キョトンとした表情を浮かべた。

中身は、ネックレスだった。

太すぎず、だが細すぎない銀色のチェーンのついたネックレス。
その先端で揺れているのはーーー

「これはーー十字架か?」
「ああ。そうだ」

箱から取り出し、霧生は目の高さまでそれを持ち上げた。
どこから見ても、十字架のネックレスだ。
中央に赤い宝石のはまった、銀の棒を掛け合わせた、ごくごくシンプルなデザインだが、それが返って洗練された美しさを感じさせる。
アクセサリーなどには疎いから分からないが、高価なモノなのだろう。
が、霧生は小首をかしげた。

「お前、クリスチャンだったか?違うよな?」
「もちろん違う」
「そうだよな」
「…なんだ?不満だったか?」
「いや、嬉しい。嬉しいんだが、……つまり、その…なんというか。JJが十字架のネックレスをプレゼントってのが、どうにもイメージと違ってだな…」

デスサイズと異名を取るほど暗殺の腕に長けた男に、十字架などという神に通じるアイテムは、どう考えても結びつかない。
むしろ一番縁の遠いモノではないだろうか?

霧生はここは質問してみようかと思ったが、もごもごと口を動かすだけで言葉にはできなかったーーが、JJは正確に霧生の言わんとしている事を察した。

「まぁ、俺らしくないプレゼントかもしれないな」
「いや、まぁ…そんなことも、無いとは思うが」
「いいよ、気を遣わなくたって。俺自信、らしくないなって思ったしな」

言って、JJは霧生の手元からネックレスを攫う。
じっと見つめている霧生に無言で微笑で返し、そっとその首に手を回し、ネックレスを着けた。
指先で十字架を弄びながら、霧生の首にぶら下がったそれに、目元を和らげた。
思ったとおり、霧生によくにあっている。

「俺が霧生にこれをプレゼントした理由、知りたいか?」
「まあ、その、なんだーーー嫌じゃなければ、聞かせて欲しい」
「笑わないって、約束できるか?」
「ん?…ああ、約束する」

何を告げられるかは全く想像すらできないが、笑うような理由ではないはずだ。
霧生は急かす事なくJJが口を開くのを待った。
しばし無言が続き、JJははぁっと観念したように一つため息をついて、霧生の瞳を見つめた。
真摯なJJの視線に、霧生は絡めとられそうになる。

「これはお守りだ」
「お守り?」
「ああ」

JJは頷き、霧生の頬を撫でた。
優しく慈しむように、そっと、そっと。

「できる事なら俺がお前をずっと守っていてやりたいが、残念ながらいつもお前のそばに居てやれるわけじゃ無いからな。仕事柄、どうしても危険と隣り合わせだから、俺の代わりにお前を守ってくれればと思って、これにした」

驚いたのか。瞠目する霧生の肌を堪能しながら、JJはやれやれと内心でため息をついていた。

出会いは最悪だったのに、こんな関係になるなんて夢にも思わなかった相手なのに、何故だろう、
愛おしさが尽きない。
地獄の猟犬と呼ばれるほど威勢が良く、生意気で、無鉄砲で。
瑠夏るかと未だに煩いし、ファミリーに何かあればデートだってすっぽかしてしまう薄情なやつなのに、嫌いになれない。
たぶん、それは霧生礼司と言う男を、知りすぎたせいだろ。

気が強いけど、甘えたがりで、そして結構寂しがりやで。

そんな一面を自分にだけは見せてくれるから、手放せそうにない。
霧生の心に住まう存在は多すぎて、自分だけにはならないだろうが、JJは霧生の事が、ただただ愛おしかった。

無くしたくなかった。
何者からも守ってやりたい。
大切に、大切に、傷つかない様に。

だけど、それはできないから、だから、コレに想いを託したのだ託したのだ。
この十字架に。


「お前も俺と同じであまり装飾品を好まないみたいだが、これならいいだろう?肌身離さずつけてろよ。俺だと思って、なーーー因みに真ん中にハマってるのはルビーだ。宝石言葉は『燃えるような愛』だそうだ」

プレゼントの意味を知り、
あまりの嬉しさに、それを現実として受け止めきれなかった霧生だが、はっと我に返った。
今、「燃える様な愛」と、そういったか?

「つまり、お前は俺にぞっこんだってこと…か?」
「そんなの今更確認するまでも無いと思うがーーーああ、そうだ。俺はお前にぞっこんだ」

霧生は一瞬にして全身を真っ赤に染めた。JJがーー口下手な男がそんなにストレートに愛を語るなんて奇跡としか思えない。

「やけに素直に認めるんだな」

ふっと笑ってJJは霧生を抱き寄せた。熱い眼差しが霧生を熱く滾らせる。
膝に微かに触れる、JJの下肢も熱くなっていた。

「なんだ?俺が欲しいのか、JJ」

余裕なんかないのだが、霧生は強がってふふんと鼻で笑ってJJを挑発した。反発してくるかと思いきや、JJはやはり、素直に求めてくる。
首筋に、JJの指が這う。
それだけで、霧生は腰を震わせた。

「当然だ。本当は毎日だって愛してやりたいさ。ところで、どうだ?プレゼントは気に入ったか?」
「聞かなくても分かるだろ。気に入ったよ、JJ。お前のプレゼントは誰からもらうモノより嬉しい」

自分だけに向けられる特別な気持ちのこもった、最大級の愛の証に、霧生は胸が熱くなって、目元を潤ませていた。
だけど、それをJJに見られたくなくて、霧生はJJにきつく抱きつくことで防いだ。
JJの体温が、心地いい。

「今夜は、帰ったりしないよな?一晩中、愛してくれるよな……?」
「それこそ当然だろ?たっぷりと、嫌というほど俺を感じさせてやるよーーー礼司」

名を呼ばれ、そのままJJが顔を寄せてきた。
霧生は誘う様にゆっくりと目を閉じ、JJを迎えるためにうっすらと唇を開けた。

「ん…っ、JJっ、…ん」

JJの舌に歯列を辿られ、上顎を撫でられ、キスだけでどうにかなりそうになりながら、霧生は必死にJJの顔を引き寄せる。
もっと深く、もっと熱く、JJを全身で感じられるように。
キスをしながらベッドに横たえられ、霧生はうっとりとJJに身を任せた。

「ーーー礼司、愛してる」

キスの合間に囁かれた紛れもない愛の告白に、霧生は舌を絡めながら瞑目し十字架を握りしめた。

ーーー愛してる。俺も、ずっとお前だけを。

例え運命が二人を分つ事があろうとも、もし神様が本当に存在するとして、俺たちの中を引き裂こうとしても、このデスサイズという通り名を持つ男ならば神だって蹴散らしてしまいそうだしなと霧生は笑みを浮かべた。
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