オメルタ★獅子と狼

□裏切りの烙印、血の掟
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以前は買出しなどでよく利用していた露店街を、JJはひとしきり見てまわった。
路上にシートを引いただけの簡易な店や、日本語や外国語で書かれた看板がごちゃ混ぜに立ち並んでいる。
日用品を取り扱っているごく普通の店もあれば、少し裏通りに入ると違法まがいの代物を取り扱っているみせがいつも通り軒を連ねている。

フリーで働いていた時は仕事や情報収集の為に使用する機会が多かったこともあり、ごちゃ混ぜに立ち並ぶ露店の何処がなにを取り扱っているか、だいたいの事は知っている。
馴染みの店はたいしてなかったが、つい最近まで出入りしていた場所だったせいか、こんな露店街でも懐かしさを感じた。

現在は情報収集などする事もなく、必要な情報は依頼時に漏れなくついてくることが常だ。
手間が省けて有りがたいと思う反面、たまに物足りなさも感じているのはJJ だけの秘密だ。
ターゲットの情報を集め、入念に計画を練り、いつでも殺れるように下準備をして実行に移す。ここまでやるからこそ得られる達成感が今はちょっとだけ薄い。
人を殺める事に達成感を求めること自体間違っているのだが、それは今更だろう。

颯爽と慣れた足取りで歩いているとJJの目に既視感を感じさせるものが飛び込んで来た。
色褪せたオレンジ色の布ばりの屋根の下に、鳥籠が一つぶら下がっている。なかには二羽の白い小鳥が仲むつまじく寄り添いあって、大人しく止まっていた。

「そういえば、梓が何処かから小鳥を連れ帰って来た事があったな」

傷つき、飛ぶ事さえままならなかった小鳥を大事そうに、懸命に看病していた梓の姿が脳裏を過る。
JJがキングシーザーに入団する折、マスターに小鳥と共に託した彼は今は幸せに暮らしているだろう。
どんな生活を送っているか詳しく聞いたことはなかったが、自分と生活していた時と比べればかなり快適だろう。

「さて、これからどうするか」

趣味といえば銃器の種類や歴史など、それに纏わる話しを学んだりする事なのだが、他には特にない。
だから出かけても必要に駆られた買出しくらいな物で、外を出歩き慣れてないJJは、しばし途方にくれた。

ふと、久々にエピローグ・バーに行こうかと思ったが、まだ時刻は夕刻に差し掛かったばかりで、開店時間には早い。
まぁ、行けば既にマスターは来ているだろうが、流石に突然押しかけるのは気が引けた。

(どこかで時間を潰してから行くとするか)

このままアジトに戻るという選択肢はなく、まだ一人で自由を漫喫したいJJは、今来た道を何気なく引き返した。


* * * *

JJはプレハブ小屋のドアノブを回し、なかに入ってドアを閉めた。
別にここに来ようと思って来たわけではなかったのだが、何故か自然と足がここに向かっていた。

ーーここはJJが遠野 梓と寝食を共にし、フリーの殺し屋として活動していた彼が最後に選んだ住処。

何故俺はここに来たのだろう。
もしかしたら、小鳥に誘発されたのだろうか。
それとも過去を振り返り、感傷にでも浸りたくなったのだろうか?
自問するが、考えてみてもわかるはずがない。

部屋は手入れされずに放置されていたせいで、すっかり埃が溜まっていた。
ベッドを叩けば、すぐさまくしゃみが出るくらいすごい量の埃があちこちに積もっている。
窓から微かに差し込む光が、宙に舞う埃に反射してキラキラ光る。

ベッドに座る訳にもいかず、ましてや床など到底無理で、JJは結局突っ立ったまま、部屋を眺めた。

ーーー不意に。

カツ、カツ……と、誰かがこの部屋に向かって来る足音が聞こえて来た。
規則正しく、等間隔で足を運んでいるのか、几帳面なほど一定の間隔で音が響いて来る。

(……誰だ…)

JJはいつでも対応出来るように懐に潜ませていた愛銃であるベレッタに手を伸ばす。
こちらは警戒心を高めて行くのに反し、相手は実に優雅な足どりで向かって来ているようだ。

ここは打ち捨てられて久しく、住民など皆無。
用が有るとすれば自分以外に考えられない。

ドアの前で立ち止まり、ドアノブがゆっくり回されていく。
現れた人物を認め、JJは予期せぬ人物に瞠目した。

素早く、JJは来訪者にベレッタの照準を合わせた。
が、相手は揺らぐことなく至って冷静で、その口許に笑みすら浮かべた。

「こんにちは。始めましてと自己紹介した方が宜しいでしょうかね。……デスサイズ、今日は貴方にお話があって来ましたーーー」

名乗られるまでもない。JJはその男を知っている。
いちぶの隙なく上質のスーツを身につけ、理知的で、それでいて冷徹な雰囲気を持つ男。
ーーーーこいつは。

「宇賀神 剣……」

JJの微かな呟きに、ドラゴンヘッド最高幹部である宇賀神は満足気に笑みを深めた。
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