オメルタ★獅子と狼

□裏切りの烙印、血の掟
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「どうやら私の事はご存じのようですね。私も、貴方の事はよく存じていますよ。狙った獲物は百発百中で仕留める凄腕の殺し屋ーーデスサイズとして、貴方は有名ですからね。一度お会いしたいと思っていました」

眼鏡のツルを指先で押し上げ、涼しい顔で嘯く宇賀神に銃口の狙いを定めたまま、JJも硬い口を開き皮肉を返す。

「俺も、ドラゴンヘッドNo.2である怜悧冷徹、冷酷非道な「氷の処刑台」の事は耳にした事がある。生憎、俺は会いたいとは思わなかったがな」

キングシーザー入団の日、宇賀神とは霧生と共に一戦交えた過去があるのだが、お互い初対面を装ったままその姿勢を崩さない。
狭い室内に、何とも表現し難い張り詰めた空気がながれていくのを、感じずにはいられない。

換気もろくにしていない部屋に入るのが嫌なのだろう。
宇賀神は一歩踏み出したが、すぐ様舞い上がる埃に眉根を寄せ、そのまま入り口付近から動こうとしない。
いかにも几帳面そうな男はこんな薄汚れた場所は、肌に合わないようだ。

「それで?氷の処刑台様が何の用事があってわざわざこんな所に足を運んだんだ? しかもこんなタイミングよく」

問われ、宇賀神は薄ら笑いを浮かべて懐に手を入れた。ヤル気かと、JJは構えたが、彼は白いハンカチを取り出しただけだった。

「先ほど申し上げましたが、私は貴方にお話があって来ました。近々、我々ドラゴンヘッドはキングシーザーと話し合いの場を設けようと思っていまして、それに備えて人員を募集しております」
「それが俺とどう関係がある。まさか俺を勧誘しにでも来たのか?」

半分以上、冗談で言い返したのだが、宇賀神はにっこりと上機嫌に笑んだ。

「ほぉ。なかなか頭の回転が早いようですね。いえ、こちらとしても無駄な時間を費やさずに済んで嬉しい限りです。ーーーそうです、お察しの通り、私は貴方を勧誘しに来ました。ドラゴンヘッドの一員にと誘うために」

面と向かい、いけしゃあしゃあと言い放つ男にJJは呆れた。自分が勧誘されてドラゴンヘッドの一員になるなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。
JJはしらけた様に、鼻で笑った。

「本気で言ってるのか? どうやら知らないらしいから教えてやるが、俺は既に売約済みだ。お前たちが火花を散らしているキングシーザーに、な」

不遜げに言いながら、JJは双眸を細めた。
反応を伺ったが、宇賀神はJJがすでにキングシーザーに入団したことを知っていたのか、驚く様子は微塵もない。

だが、このまま何事も無く終わるはずがない。
相手はドラゴンヘッド最高幹部。断れば、ここで一戦交えるのは必須。
入り口は宇賀神に押えられ、退路はないに等しい。
先に殺らなければ、こちらが殺られる。
JJはセーフティが外れているのを確認し、宇賀神の心臓を捉えた。

「まったく、貴方は以外とせっかちですね。私は貴方にお話がしたいだけで、ここでドンぱちやるつもりは毛頭ありません。ですから、その銃をしまってください」

銃を向けられてなお、平然と、態度を崩さない宇賀神にJJは微かに苛立ちを募らせた。

「もう一度言う。俺はお前達の仲間にはならない」
「では私ももう一度言いましょう。デスサイズ、キングシーザーを抜けて、ドラゴンヘッドの一員になりなさい。今度は勧誘では無く、命令です」
「命令、だと?笑わせるな、俺はお前に命令される様な覚えはない」
「そうですか。でも、私の言う事を聞いた方が貴方の為だと思いますがね」

不意に宇賀神の纏う空気が一変した。対等な立場から、支配者の顔となった宇賀神は、先ほど取り出したハンカチを掌の上にのせ、そしてはらりと開きーーー現れたそれにJJは息を飲んだ。

「それは、どこで手にいれた?」

凄みを増した声音を抑える事無く、JJは宇賀神に射殺さんばかりに睨み付けた。JJの怒りを確かに感じ、宇賀神は眼鏡の下でほくそ笑んだ。


「これですか?これは貴方へとある方から預かって来たものです。本来ならご自分で渡した方がいいのでしょうが、生憎彼は外出出来る状態で無くてね。なので代わりに私が持参しました」

どうぞ。と差し出されたそれをJJはひったくるように宇賀神の手から奪う。

まさか、と思ったが、JJの不安は確信に変わる。
JJの掌に鈍い煌めきを放つ金の懐中時計があった。
忘れもしないそれは、彼が闇市で散々吟味した末に購入し、梓に贈ったもの。

何故これを宇賀神が持っているのかなど、問うまでもない。


ドラゴンヘッドの悪どさは知っていたはずなのに、握った拳が怒りで震えて止まらなく成る。

「梓は無事なんだろうな」
「もちろんです。彼は私の部下が丁重にお世話させていただいていますよ。今は、ですがね」

宇賀神の含みを持たせた言い方に、JJのはらわたが煮えくりかえる。

「いきなりの勧誘で戸惑うのも分かりますので、猶予を差し上げます。それまでに結論を出してください」


そうして宇賀神はJJに期限を告げた。無言のままのJJを置き去りにし、宇賀神はさっさと名刺を渡して姿をを消した。

宇賀神が居なくなり、JJはギリっと奥歯を噛み締めた。

彼の手の中で金の懐中時計が時を刻む。

それはまるで誰かの心音の様に重たげな響きとなって、JJの鼓膜に響いたーーーー
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