オメルタ★獅子と狼

□Sei tutto per me
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「あー、じゃあ次は俺からな!」
いままでの出来事をなかったことにするかのような無駄にハイテンションな声音で、石松が瑠夏へプレゼントを差し出す。
「これはシガーケースかい?」
キラキラと照明を弾いて煌めくのは、シルバーのシガーケースだ。シンプルだが、さりげなく瑠夏のイニシャルが刻印されてあるそれは、オーダーメイドだろう。
JJもあまりこの手のものには詳しくは無いが、それでも一目でわかった。明らかに量産品とは異なる一品だ。
「ボスは俺みたいにヘビースモーカーってわけじゃねぇから迷ったんだが、あっても困るもんじゃねぇしな。まぁ、使ってくれ」
「ありがとう石松、大切に使うよ」
瑠夏が喫煙者であることを知っているのはキングシーザー内部でも限られた者たちだけだろう。瑠夏は気心を許した者の前でしか吸わない傾向にあるらしい。
匂いには敏感な方だと自負していたが、滅多に吸わないせいかJJにすら喫煙者だと気がつかせなかった。
長い付き合いであり、深い間柄である者にしか渡せないプレゼントに、少しばかり複雑な気分になる。
「ボス、僭越ながら俺からもプレゼントを。お誕生日おめでとうございます」
次いで、霧生が瑠夏へプレゼントを渡した。
ありがとうと言いながら瑠夏が受け取った箱は、石松同様に手のひらに乗るほど小さなものだ。箱から取り出したそれに、瑠夏が嬉しげに目元をほころばせる。
「これはーーカフス、だね」
「はい。先日ボスのお気に入りが壊れたと聞きましたので、良ければ代わりになれば、と。ボスの好みに合えばいいのですが」
「ああ。気に入ったよ。早速次の外出時に使わせてもらうよ」
瑠夏の瞳の色と同じ青い石のはまったカフス。それは何故か瑠夏に対するボスへの憧憬を超えた気持ちが含まれてるように感じられて、JJはまたもや少しばかり複雑な気分になる。
自分だけのものになって欲しいと願うのは強欲すぎると分かってはいるが、やはり自分は瑠夏を独占しないと気が済まないのかもしれない。
(こういうのを嫉妬というんだろうな……)
男としては女々しすぎて認めたくない感情だが、認めざるを得ない。瑠夏には十分大切にしてもらっているし、瑠夏がファミリーと楽しそうにしているのを見るの嬉しいのだが、瑠夏には大切なものが多すぎて、たまに不安になる。
(俺は自分が思っている以上に狭量で、独占欲が強いのかもしれない)
いままで誰かを愛し、そして愛された経験がないからか、瑠夏に与えられる愛情を独り占めしたくなる。
「じゃあ次、JJの番だぜ?」
ニヤリと笑みを浮かべた石松の声に、思考に耽っていたJJはハッと我に返った。
石松や霧生、そしてパオロの期待の眼差しにさらされて、思わず後ずさりかける。
何が出てくるのかと好奇に満ちた視線が痛い。
純粋に瑠夏の誕生日を祝おうとしているファミリーに勝手に嫉妬めいた感情を抱いていた手前、居心地の悪さが加味された。
「どうしたんだJJ、用意してんだろ?」
「その……用意はしてあるんだが…」
「勿体ぶってないで早く渡しちゃいなよ、JJ」
石松がほらほらと急かし、パオロも同じく早くと急かしたてる。霧生はと言えば、こちらも早くしろと鋭い視線で訴えていた。
居心地の悪さが半端ない。渡すまではずっとこのままかと思うと気が滅入る。取り敢えず、なにかいわなければと、JJは口を開いた。
「その……、悪い。部屋に置いてきた」
「はぁ?」
「えっ?」
「何だって?」
予想どうりというべきか。脱力した三つの声が三者三様に聞こえてきてた。
(まぁ、そういう反応になるよな…)
誤解のないように弁明するならば、プレゼントはきちんと用意してある。だが、冷やかしの目にさらされるのが目に見えているので、敢えて置いてきた。馬鹿にされるのを回避したかったわけじゃないと、心の中で言い訳をしてみるが、つまりはそういうことだ。
「お前忘れたって、どんだけ抜けてるんだよ?!ありえ
ねぇだろ!」
「いや、その、本当につい、うっかりだな……」
「うっかりって何だ?どれだけ天然なんだ?!そういうキャラじゃないだろ貴様は!!」
石松と霧生の猛攻撃に、勘弁してくれと内心うんざりする。
「こらこら、JJをいじめるんじゃないよ」
「…瑠夏」
黙って見ていられなくなったのか、瑠夏が助け舟を出してくれる。
「そうだよ、二人とも。JJは恥ずかしがり屋さんだからね。勘弁してあげようよ。自分のプレゼントはボスと二人きりの時に渡したいっていうJJの乙女心を理解してあげなきゃ。ねぇ、JJ」
当てつけなのか、何なのか。いや、揶揄いたいだけなのだろうが、満面の笑顔をパオロに向けられ、JJはどう反応していいのか本気で迷った。
確かに二人きりの時に渡したいというのはあながち間違ってはいないのだが、乙女心云々のくだりはどうやっても理解できない。
ああそういうことかと妙に納得顔の石松も癪にさわるし、何を想像したのか顔を真っ赤にさせて俯いている霧生の態度は意味不明だ。
瑠夏は、微妙な表情で無言になっているJJを一瞥し、苦笑した。
「ま、そういうことで、JJからのプレゼントは後でもらうことにするよ。ーーーあとで、持ってきてくれるよね?」
さりげなく抱き寄せられ、小さく、囁くように耳打ちされてJJは、ああ…と頷いた。
それに瑠夏が満足気ににこりと微笑み返し、話はこれまでとばかりにパンパンっと手を叩く。
「みんなからの気持ちはありがたく受け取ったことだし、そろそろ何か食べよう。実は朝から何も食べていなくてね。さっきから腹ペコだったんだ」
腹をさすり、しょんぽりと眉を下げるボスに、皆もそうだなと賛同する。パオロと石松、そして霧生の関心はすでにJJから離れ、香ばしい匂いの料理に向けられた。
「君も何か取りに行かないかい?」
「いや。俺はもう少しここで飲んでる。久々に酒の味を味わうのも悪くない」
「わかった。じゃあ酒のつまみになりそうなものをついでに見繕ってくるよ」
じゃあねと、JJの胸元を叩き、瑠夏は霧生たちを伴って香ばしい料理が並ぶ一角へと姿を消した。
しばらく、何ともなしにその後ろ姿を見つめていたが、ふと違和感を感じて、上着の胸ポケットに手を突っ込んだ。
「これはーー」
ごそりと深くまで探る必要もなく、ポケットの中には一枚のカードキーが入っていた。銀行のキャッシュカードにも似たそれには四桁のーーー部屋番号が刻まれていた。
そのカードが意味することをきちんと確認しておきたくて、瑠夏の姿を視線で探せば、向こうもこちらを見ていたらしくすぐに視線が絡まった。
「待ってるから、逃げないでくるんだよ。いいね?」
声は届かず、だが口元だけで告げられたその言葉を一言一句違わず聞き取ったJJは、どくんっと胸をはねさせた。
そして、言葉よりも雄弁に語るその熱い瑠夏の視線に、JJは人知れず頬を赤く染めた。
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