帆船記T

□十三日月
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 我に乗っている海賊達は、仲が良い。
 仲が良いけれど、小さな揉め事は、日常茶飯事だ。
 揉め事があるから、彼らは仲が良くなるのかもしれない。

 我は海賊船の精霊シリウス。

「バカバカ言うんじゃねーよ」
「馬鹿にバカと言って、何が悪い。お前の下手な剣のせいで、進路が狂った」
「ちょっと、ロープを一本切っちまっただけだろ。トワが交換してんだからいーじゃねーか」
「そのロープ一本が、進路にどれだけの影響を与えるか判っていないから、バカだと言ってるんだ」

 トワに剣を教えると言って調子に乗ったハヤテが切ったロープは、帆の向きを変えた。

 我は、風に押されてシンの予測航路から大きく外れている。

「シンさん、ロープ直しました」

 シュラウドを伝って下りたトワに頷いたシンが、溜息混じりに操舵デッキに向かう。

 航海室から様子を見ていたヒロインが、机に戻って数学の問題に取り組み始めた。

 見張り台にいたナギは、周囲を一巡確認してからシュラウドを下り、ハヤテの横に立つ。
「おい」
 ハヤテの頭を小突いた。
「ってーな。なんだよ、ナギ兄っ」
「…シンにきちんと謝っとけ」
 シン相手には、いつも売り言葉に買い言葉のハヤテだが、ナギの言葉には比較的従う。
「わかってるよっ」
 ナギは、またすぐに見張りに戻った。

 甲板での様子を船室の扉から見守っていたソウシも、微笑んで医務室に戻る。

 やがて。

 予定の航路に我を戻すべく舵をとるシンの横に、きまり悪そうなハヤテが立った。

「…その……悪かったよ…。予定狂わせて…」
「ふん、見くびるな。この程度のズレ、すぐ戻せる」
 答えるシンは、笑っている。

 言い返そうとするハヤテの袖を、トワが引いた。
「ハヤテさん、ソウシ先生が呼んでます」
「はあ?」

 しぶしぶ、医務室へ向かうハヤテの後姿を見送るシンに、怒りはない。

「なんだよっ」
「うん、いい子だね、ハヤテは」
 ふてくされるハヤテを宥めるソウシは、毎回絶妙のタイミングを逃さない。

 我は予定した航路に戻りながら、海賊達の不思議なチームワークを羨ましく眺めた。

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