陽光 その二
□十題
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01: あなたしか見えない
港の酒場。
船長が酒を注文して座れば、黙っていても女と呼ばれる者が言い寄ってくる。
高い酒を遠慮なく注文する船長のような、稼いでいる海賊は、ここの女たちにとっても、格好の金ズル。
女たちは、自分の持つ情報と身体をちらつかせて、より多くの金を得ようと必死だ。
海賊にとって、一番有益な女が、勝利する。
なんて分かりやすい争いか。
「ねえ、どうして片目になったの? 軍との戦い? その眼帯の下の傷、ベッドの中でゆっくり教えてよ」
媚を売って誘いをかけて来る女の向こうで、店を出ていく後姿が見えた。
どんな喧噪や人ごみの向こうだろうが、決して見逃さない。
煩わしい指や手を除けて、店を出る。
「おい、シン……ったく……お前らもこっち来い、俺がまとめて可愛がってやるぞ」
船長が苦笑混じりに言うのが聞こえた。
大きな港の夜街は、人々が欲望をむき出しにして行き交う。
うす暗い人ごみのなかを一巡すれば、探す姿は一瞬で見つかる。
まるで、モノトーンの世界でそこだけ彩りが添えられているように。
夜街の中で、明らかに色の違うアイツは、格好の餌食なのだという自覚がないから困る。
「俺の連れに何か用か?」
後ろから腰に腕をまわして引き寄せ、一睨みすれば、大抵の奴らは俺のヒロインから手を引く。
「シンさん!」
なぜ居るのかと、驚くことが腹立たしい。
俺にとって、この世の女は1人しかいないのに。
酒場で群がる者たちは、もう今の俺には女に見えないことを、どうしたらコイツは理解するだろう。
「まったく…少しは懲りろっ」
俺に無断で出ていく後姿は、俺を誘っているんだろう?
腕を腰に回したまま、ヒロインを路地へ引き込む。
こんな夜街の路地ならば…潜む男女など珍しくもない。
この腕に閉じ込めて、俺はヒロインに口づけた。