小さな悪魔の物語
□2日目夜
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「それ、ハヤテのところへ持っていくのかな?」
ナギが見張り台にいるハヤテのために夜食を作っていると、ソウシが食堂へやってきた。
「ドクターも夜食ですか?」
そんなことはありえないと思いつつも、聞いてみる。
「ああ、それもいいね」
にっこりと返されて、ナギの方が驚いてまじまじとソウシを見返してしまった。
「そんなに私が夜食を食べるのは変かな?」
くすくすと笑いだすソウシは、どこか機嫌が悪そうな雰囲気を漂わせている。
「食べるなら、作りますよ」
「うん。食べないから作らなくていいよ。お茶をもらえるかな?」
「………」
下手に話すと絡まれる、と悟ったナギが黙り込んで茶をソウシに渡した。
「ありがと」
「………」
無口になったナギを見て、ソウシが苦笑する。
「……あの子、何者だろうね?」
「………」
それは、ナギだって聞きたいところだ。
「昼間、銃を片手にここへ駆けこんでいくあの子をみて、びっくりしたなぁ…シンにそっくりな走り方をしていたよ?」
「………」
それは見なかったが、夕食の準備の時、ライがまるでシンのように銃を扱っていたという話は、ユリカから聞いていた。
それこそ、銃の構え方までそっくりだったと、相変わらず微笑みながらユリカは話していたので、なぜそれを訝しく思わないのか、ナギが不思議になったくらいだ。
「今日は、一日中あの子、シンに纏わりついていたしね…。あのシンを慕って見上げてついていく様子は、まるでユリカちゃんみたいだったよ?」
「………」
それもまた、ユリカの話でナギは聞いている。
ライがやたらとシンの周りを動き回り、航海士の仕事を手伝いたがるのだと。シンが、ユリカの目から見ると少し嬉しそうに、仕事を手伝わせているのだと。
それは、ユリカが少し妬けるくらいなのだと。
「…ナギばかりずるいな? ユリカちゃんから、いろいろ聞いているね?」
「………」
表情を読み取るのが得意なソウシ。
聞いた言葉から考えを巡らせるナギの反応を覗っていたらしい。
「…あの子供、『浮気したら海の藻屑にされる』とユリカに言ったらしいですよ、今朝」
「へぇ…。あの年で浮気なんて言葉、知っているんだ?」
「昨日は、一日中ユリカと居たのに、どこでシンの口癖聞いたんですかね……」
ナギの指摘に、ソウシもそういえば…と、思考が動く。
「ライは、シンに教わらなくても、海図が読めて、測深ができたそうです。手順までシンそっくりに…」
銃の構え方もそっくりだったらしいと聞いて、ソウシが目を眇める。それはもう、隠し子とか、腹違いとか、そういうレベルとは違うのではないか、と。
「あと、野菜の皮むき、上手かったですね。薬草についても、知っていたと聞きましたよ」
「そうだね、乾燥したものを見て、オトギリソウだと言い当てたのは、私も驚いたよ」
ソウシがお茶を口に含む。
「おいこら、お前ら勝手に詮索してんじゃねーぞ」
リュウガが苦笑して食堂へやってきた。酒を飲む氷が尽きたのだという。
「やだなあ、詮索じゃなくて、情報収集だよ。ね、ナギ?」
笑って答えたソウシに、リュウガが釘を刺した。
「それを詮索って言うんだよ。まあ、もう少し、黙って見てろや。お前らも、もっと面白れぇことに気付くぜ?」
リュウガもまた、別のことで気づいていることがあるらしい。
「ありゃ隠し子や腹違いじゃないってことは、確かだな」
「それは、どういうことかな?」
「お前らなら、黙って見てれば判るって。あれは、逆に、シンやユリカじゃ気付かねぇよ」
氷を受け取って、リュウガが笑いながら去っていく。
「…………」
「シンじゃ気付けない?」
二人はそれぞれに考え込んだ。