小さな悪魔の物語

□2日目夜
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「ハヤテさん、頼まれた毛布持ってきましたよ」

「あー、わり」

 見張り台でトワから毛布を受けったハヤテは、背筋を伸ばしながら欠伸をした。

「…そういやあのガキさ、シンの隠し子じゃねえんだって」

 ハヤテの言葉に、トワが関心を示す。

「誰かに聞いたんですか?」

「ん。ライに聞いたら、言ってた」

「ええっ!?」

 驚きで、バランスを崩しそうになったトワが、見張り台にしがみついた。

「…何やってんだ? お前」

「ハヤテさん、ライくんに直接言っちゃったんですか?」

「本人に聞くのが、一番、早えーじゃん」

「そんな…。だって、ライくん、まだ10歳になったばかりの、子供なんですよ? 自分が隠し子だって、知ってるかどうかも分からないじゃないですか」
「あ、そっか…」

 本人が知らないでいる、ということもあるのか、と言われて初めてハヤテは気付く。

「んなこと言ったって、シンが素直に言うわけないし、気になるじゃん」

「だからって、本人に言っちゃだめですよ。ライくん、大丈夫かなあ。気にしてないといいんだけど…」

 トワの方が、慌てて心配している。

「あいつの親父って、空賊に掴まってんのかな……」

「さあ…でも、また襲撃ありそうですね」

「見張りも気が抜けね―な…よしっ」

 ハヤテが、気合いを入れて空を仰ぎ見る。

 雲ひとつない晴れ渡った星空。

「あとで、ナギ兄に夜食の差し入れ頼んでおいてくれよな」

「頼まなくても、もうナギさん、作っていましたよ?」

 トワが笑って倉庫へ戻っていく。

 見下ろせば、トワと入れ替わるようにシンが甲板に出て、操舵に向かう。

「アイツも徹夜か…?」

 昼過ぎに、進路を変更してフラワ島の港へ行く、と伝えられたが、シンが徹夜で舵をとるような行程らしい。

「そういえば、シンのやつ、ここから飛空挺攻撃してたな…」

 メインマストの上にある見張り台は、揺れが激しい。

 こんな場所から撃って、よく狙いが定まるものだと感心する。

 感心するといえば、昼間、ハヤテを援護した銃撃も、その距離からしたら神業に近い。

 シンのようになりたい、と言ったライは、そんなシンの腕を知っているのだろうか、と思う。

「…ライも、銃使えるなんて、驚きだけどな」

 戯れに、親指と人差し指で指鉄砲を作ったハヤテが、星に狙いを定めて撃つマネをする。

「ハヤテ、真面目に見張れ」

 呆れた声のナギが、夜食を持ってハヤテの足もとまで登って来ていた。


 3日目午前
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