陽光 その二
□春船
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「シンさん、あの船は……」
船が止まったのを不思議に思ったらしいヒロインが、甲板に出てきた。
「船長への客だ。いいから、ナギの手伝いでもしてろ」
「そのナギさんから、気になるなら、見てこいって言われて来たんですけど…」
ヒロインが、興味津々に、少し離れて停泊するフォーマルハウト号を見る。
「あ、なんか、女の子がいっぱいいる…」
シンが、舌打ちしてヒロインの腕を掴んだ。
「いいから、厨房へ行っていろ。ナギに、フォーマルハウト号が来ている、と言えば判る」
「でも……」
「俺の言うことが聞けないのか?」
「……はい…」
渋々、ヒロインが厨房に戻っていく。
扉が閉まったままの船長室を一別してから、シンは航海室へ入った。
現在位置を確認して、海図と照合する。
「…下手をすると、一晩この場所か……」
その可能性は、十分にあった。
娼婦の船。娼船。
港で男たちを待つ娼館の女たちと異なり、男たちのいる海までやってきて、春を鬻ぐ女たち。
海賊に襲われて売られた女、山賊に襲われて売られた女、何かと訳ありの、地上には置いておけない女たちが船の娼婦になることが多い。
どうにもならない嘆きと怨嗟を抱えた哀れな娼婦が、救いを求めて逃げ出すことも多いため、ほとんどの娼船は男たちを自分たちの船上へ招く。
まさに、船の娼婦たちは、一歩も船から降りられない境遇に置かれていることが多い。
そんな中では、フォーマルハウト号は、かなり「まっとう」な娼船だった。
フォーマルハウトの娼婦は、相手の船にも乗る。港で陸へも降りる。
何より、不当に浚われ売られた娘を、同業の娼船から買い戻して救い出すことも時折していた。
それはまるで、海賊達の中にあるシリウス号のような。
航海室の扉がノックされ、ソウシがやってくる。
「ドクター?」
「リュウガは部屋? もしかして、ルビィと一緒なのかな? シンは知っている?」
「ええ。船長はルビィと一緒です」
「そっか……」
ソウシが溜息をつく。
「シン、ヒロインちゃんには説明した?」
「いえ……」
「せっかくだから、先に説明しておいたら? いわれのない言葉を聞いてしまう前に。遠ざけるのも確かに守る一つの方法だけど、きちんと教えておくことも必要でしょ? 幸い、ルビィの船なら、そうそう変な子もいないはずだけど…」
「…………」
シンが立ち上がる。
「ドクターの意見も、一理ありますね」
そう、言い残して、シンは航海室を出た。