12 years ago

□邂逅1
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その子供は、海を見ていた。
まだ思春期に達したかどうかの、可能性あふれる子供。

「いつか、あの海で…なってやる…」

強い決意の滲む声を、たまたま通りかかった若い男が聞いた。

「坊主の夢は、船乗りか?」

声をかけたのは、本当に気まぐれで。

海を眺めている子供は、突然の見知らぬ男の声に振り向くこともしない。

「あんた、誰?」

後ろ向きのまま、生意気な返事をされて、逆に男は興味が湧いた。

「ただの、通りすがりの船乗りってとこだな。ここからの海は、綺麗だなぁ…」

子供は海を見つめたまま、言った。

「俺は、ただの船乗りになんかならない…」

「ほう。ってことは、海軍のお偉いさんにでもなるか?」

「軍人になんか、絶対にならないっ!海軍なんか潰してやるっ」

「おいおい、穏やかじゃねぇな。海軍に家族でも殺されたか?」

「………」
 
子供は答えない。

振り向くこともしない。

そのまま立ち去っても良かったのだが、男は、好奇心から、子供と話してみたくなった。

「海軍を敵に回すのなんて、海賊か敵国くらいだぞ」

「そんなこと、知ってる。…俺は、有名な強い海賊になって、海軍を叩き潰す」

生意気な子供が語る夢を、男はつい、笑ってしまった。

海だけを見つめていた子供が、初めて振り返って男を見る。
思いの外、顔立ちの整った色白の美少年だった。
そして、男を睨みつける子供の眼…。

「ほう…」

珍しいオッドアイ。

「いや、笑って悪かった。……坊主に、いいことを教えてやろう」

男が、ニヤリと笑った。

「早く有名な強い海賊になりたかったら、海賊王の船に乗れ」

「海賊王?」

「そうだ。海賊王の船に乗るには、何でもいい。誰にも負けない、何かが必要だ」

「何かって……なんだ?」

「そのくらい、自分で考えろ。誰にも負けないモノを持ったら、自力で海賊王の船を探せ。お前なら、乗れる」

「あんた、誰?」

「ただの、通りすがりの海賊だ」

男は、子供に背を向けた。

…あのガキ、面白れぇ。いつか、マジで来るかもしれねぇな…

男は、美女がたくさんいるという酒場へ向かいながら、笑った。

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