小さな悪魔の物語
□2日目夜
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着替えを取りに部屋に戻ったシンは、ベッドで抱き合うようにして眠っているユリカとライを見て足を止めた。
「おい…」
ライがユリカに身を寄せているのは、許せる気がする。けれども、ユリカの腕がライを抱きしめているのは許せない。
我ながら大人げないと自覚しつつ、シンはユリカの腕をライから外す。
「うーん…」
身じろぎして向きを変えたライの寝顔に、シンはエマの面影だけでなくユリカの面影までもを見出して手を止めた。
「……………」
自分を『王』と呼んだ空賊は、ウルの民なのだろうか。そんな考えが、ふとシンの脳裏をよぎる。
ライが、ウルの王家にかかわる者だという予感は、間違っていないと思う。
海図が読め、舵を正確にきる感覚を持ち、測深ができる上、銃も扱える子供。どうやって育てたら、こんな子供になるのか…。
海図は繰り返し眺めて理解したような話をしていた。
舵をきる勘は、天性のものがありそうだ。
測深は、教え込まれた、と言っていた。
そして銃も、身を守るために必要不可欠だと、親に内緒で教え込まれた、と。
父親は囚われているらしいことも、アベルの話から察した。
母親は、おそらくこの子供が背伸びして早く大人になりたいと願う程度に、無邪気なのだろう、とシンは感じている。
「…いったい、お前の周りで、何がおきている? いや、俺達の周りか?」
二人は、眠っている。
ユリカの頬にかかる髪をそっと除けて、屈みこんでキスを落とす。
「……明日は、可愛がってやるからな…」
欲情の混じった呟きを残して、着替えを手に、シンはシャワー室へ向かった。