帆船記T
□六日月
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一応、ほぼ毎日、修練を積むハヤテの剣。
我は剣の煌めきが面白くて、修練しているハヤテとよく戯れる。
といっても、我は姿が見えず、声も聞こえない存在。海賊船の精霊シリウス。
ハヤテが両手に持った剣を薙ぎ払う。上段に構えて振り下ろす。
我は、その動きを読みながら、切っ先のわずかな先で止まる。
「なーんか、調子わりぃな…」
剣を降ろしてハヤテが呟いた。
原因の一端は、彼の寝不足だろう。
「なんだ。もうやめか?」
通りかかったリュウガが、拍子ぬけしたように言えば、ハヤテが途端にヤル気になるのが判る。
ハヤテは、目標が海賊王だと公言している。
再び繰り出される剣は、リュウガという見物人を得て、生き生きと舞う。
「……」
眺めていたリュウガの悪戯心に火がついたらしい。
甲板に置かれた帆のはめ輪を拾うと、指先ではじいてハヤテの剣に乗せた。
金具環が乾いた音をたてて、真上にはじかれ、キラキラと回転する。
「んなっ」
意表をつかれたハヤテに、リュウガが笑いながら言う。
「ソレ、落とさずやってみろ」
「なっ…ムリだろっ?」
それでも金具環を追ったハヤテの切っ先が、乾いた音を立ててもう一度……真後ろに弾き飛ばす。
「くそっ…」
床を転がっていく金具環。
リュウガが笑う。
「まだまだ、だな」
「せ、船長はできるのかよっ」
笑うリュウガは、はめ具をもうひとつ拾って指で弾いた。
真上に回転した金具環は、リュウガの持つ剣の切先に着地して鍔まで転がり、再び剣先まで戻って真上に回転しながら跳んだ。
「っ……」
唖然とするハヤテに、目配せしてリュウガは航海室へ向かう。
「くっそーぉぉ、やってやるっ!」
意気込むハヤテを、海面から出たばかりの半月が眺めていた。