帆船記T
□八日月
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昨日の港から、ずっと、我の中で潜んでいる者がいる。
我は海賊船の精霊シリウス。
船内で起きていることは何でも判るのだが、人と話したり触れたりできない以上、海賊たちに伝える術はない。
それは、八日目の半月が海上に姿を現す昼前。
倉庫の奥で、隠れ潜んでいた者が、動き始める。
ナギとヒロインは厨房で調理をしている。
ファジーとハヤテは食堂で言い争い、トワが仲裁している。
ソウシは見張り台にて海を眺め中。
シンは航海室で海図製作中。
リュウガは船長室で惰眠中。
倉庫の中で動き回る侵入者には、誰も気づかない。
侵入者…リカー号のロイは、倉庫の中で食糧を見つけ、食べ始めている。
やがて、倉庫を出て、個室をのぞきはじめた。
「真珠ちゃんの部屋はどこかなー」
独りでしゃべりながら堂々と船内を歩き回っているというのに、誰も気づかない。
我は寝ているリュウガに語りかけた。
『おい、お前の船が荒らされているのに、起きないのか?』
声は聞こえなくとも、伝わるものはある。
リュウガが目を覚まして、辺りを見回した。
ロイは、ハヤテの部屋の物色を終えて、シンの部屋に侵入する。
『シン、部屋が荒らされるぞ』
シンが、ふと顔をあげた。
リュウガは甲板に出て、訝しげに周囲を見渡す。
「なーんか、嫌な感じがするなぁ」
シンも、航海室を出た。
「こっ、これはっっ!」
ロイの驚く声が、かすかに甲板に届く。
ヒロインの着替えを見つけたロイは、手を触れるか触れまいか悩んでいる最中に、リュウガとシンに見つかった。
その後。
いつもの騒がしい騒動を、我は笑って眺めた。