陽光 その二

□微熱
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「なんだ?」

 海図を上を走らせていたペンを止めて、シンがヒロインを見た。

航海室の掃除をしていたヒロインが、手を止めてシンを頻繁に見遣るのだ。
どことなく気遣わしげに。

「あ…いえ、なんでもありません…」
「なら、掃除に集中しろ」

 視線を海図に戻して、シンは舌打ちした。

自分が計算ミスをしたことに気づいたからだった。きっと、ヒロインに気を取られていたからだろう。ありえないようなケアレスミス。

 修正する手元に、再び視線を感じる。

「ヒロイン…」
「はい、何でしょう?」

「掃除は後でいいから、出てけ」
「え?」

「気が散る」
「ええっ?」

 ヒロインが掃除にやってきてからの短い間に、つまらないミスは、これで二度目。

シンは我ながら、何をやっているのかと、思わざるをえない。

「あの…邪魔しないので、ここで見ていちゃだめですか?」

「そもそも、そこにいるのが邪魔だ」

 ヒロインの視線を感じるたびに、どことなく調子が狂う。

これが、想い慕うような熱い視線ならともかく、ヒロインが今朝からシンに向けてくる視線は、色気のかけらもない。

 それなのに、今日に限って、何故か集中力が乱れる。

「……わかりました」

 ひどく淋しげに、ヒロインが部屋を出ていく。

 シンは、もう一度海図に向き直った。

 甲板からハヤテの声が聞こえてくる。
 ヒロインの声が聞こえてくる。

「…………」

 失われた集中力は戻って来なかった。
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