陽光 その二
□微熱
1ページ/3ページ
「なんだ?」
海図を上を走らせていたペンを止めて、シンがヒロインを見た。
航海室の掃除をしていたヒロインが、手を止めてシンを頻繁に見遣るのだ。
どことなく気遣わしげに。
「あ…いえ、なんでもありません…」
「なら、掃除に集中しろ」
視線を海図に戻して、シンは舌打ちした。
自分が計算ミスをしたことに気づいたからだった。きっと、ヒロインに気を取られていたからだろう。ありえないようなケアレスミス。
修正する手元に、再び視線を感じる。
「ヒロイン…」
「はい、何でしょう?」
「掃除は後でいいから、出てけ」
「え?」
「気が散る」
「ええっ?」
ヒロインが掃除にやってきてからの短い間に、つまらないミスは、これで二度目。
シンは我ながら、何をやっているのかと、思わざるをえない。
「あの…邪魔しないので、ここで見ていちゃだめですか?」
「そもそも、そこにいるのが邪魔だ」
ヒロインの視線を感じるたびに、どことなく調子が狂う。
これが、想い慕うような熱い視線ならともかく、ヒロインが今朝からシンに向けてくる視線は、色気のかけらもない。
それなのに、今日に限って、何故か集中力が乱れる。
「……わかりました」
ひどく淋しげに、ヒロインが部屋を出ていく。
シンは、もう一度海図に向き直った。
甲板からハヤテの声が聞こえてくる。
ヒロインの声が聞こえてくる。
「…………」
失われた集中力は戻って来なかった。