陽光 その二

□救出
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「ハヤテ、守るべき大切なものができるとな、人はいい意味で臆病になるんだよ」

 リュウガの言葉に、ハヤテは怪訝な顔をした。

「は? つまり、弱くなるってこと?」

 ハヤテの答えを喉の奥で哂ったリュウガが、諭すように言う。

「違うな。恐ろしく強くなる。臆病なヤツほど、強かったりするんだぜ?」

 やっぱり、ハヤテは首を傾げた。

「わけわかんねえ…」

 腕を組んだリュウガが、水平線に目をやって微笑を浮かべる。

「あと10年もすれば、俺の言ってることが判るさ」

「はぁ?」

 恐ろしく遠い未来のような気がして、ハヤテは考えることを放棄する。

「どうでもいいや。とにかくさ、あの島のどっかにいる、ファジーのヤツとヒロインを助けりゃいいんだろ?」

「俺らは、正面突破の陽動組だからな、せいぜい派手に暴れるぞ」

「面白れぇじゃん」

 ハヤテが、不敵な笑みを浮かべて正面を見据える。

「…船長、岬の向こうへシン達の足舟が入りましたよ」

 小舟を漕いでいたナギが告げた。

「よし、じゃあ、俺らも行くか。堂々と桟橋から殴り込みだ」

「ナギ兄は、ボート隠してから合流なっ」

 リュウガが桁外れの跳躍力で、数メートル先の桟橋へ飛び移る。ナギがオールを一掻き寄せて、ハヤテも飛び移った。

 ナギが小舟を浜へ向ける。

 桟橋の上を、建物にむけて走る二つの影に、人が集まり始めるのが確認できた。

「海賊リカー団が、仲間を取り返しにきたぜぇー」

 リュウガの大嘘を吐く大音声が、ナギのもとにまで届く。

 フッ、と笑ったナギが、小舟を浜へ引き上げ、漂流物の間に隠した。鎖鎌を手にして、喧騒のする方向へ走りだす。

 走りながら、向かう建物を確認する。城のように何層もの作りになっている建物は、5階建て、だろうか。いくつかの窓が開いて、様子を確認する影が見えた。下から二列目にあたる窓が開き、一斉に銃口が顔を覗かせる。

「銃っ」

 リュウガ達に警告しながら、ナギが二人と銃口の合間に鎖鎌を繰り出した。

 パン、パパン、パン、パパパン

 銃声と同時に、

 キキキン、キンと、ナギの鎖が銃弾を弾き飛ばした音が重なる。

 いくつかは弾ききれなかったが、二人は無事に避けたらしい。

「サンキュー、ナギ兄っ」

 二本の剣を別々に振って三人の攻撃を受け流し、返す薙ぎで二人を倒したハヤテが、残り一人を蹴り飛ばしてナギに身を寄せた。

 その間に、リュウガは一刀で周囲の敵一周を倒し、しかも倒した相手から奪った短剣を銃口の窓にいくつか投げて確実に銃口の数を減らしている。

 まさに、独りで小国の軍隊一つを全滅させたという逸話を持つだけのことはある動きと機転。

 しかも、リュウガは止まることなく敵の間を駆け抜け、倒しながら奪った短剣を、建物の空いた窓に次々と投じている。

「こんなザコばかりか? よくこの程度で、賞金稼ぎ団プロキオンなんて名乗ってるなぁ」

 明らかに、挑発する意図で、リュウガの大声が響く。

「南の海の覇者だかなんだか知らねぇが、海賊如きが、調子に乗るんじゃねーや」

 建物から二人、格の違いそうな男が現れた。

 ハヤテとナギが、闘いの最中に、はっとして背中を合わせ、リュウガの方に視線を流す。

 彼らが船長と呼ぶ男の背中が、それまでとは違う気配を纏っていた。おそらくは、普段滅多に見せない、暗く光る眼をして、不敵な笑みを浮かべているに違いない。

「ようやく、面白そうな奴等のおでましか」

 声音も、低く暗い。

「…ナギ兄っ」
「それだけの相手ってことだ。時間稼ぎは終わりだ。俺らでザコ全部片付けるぞ」
「へっ。上等っ!」

 ナギの鎌の早さが増し、ハヤテが鎖の合間を縫って次々に剣を薙ぐ。

「おらおらっ。てめえらの相手は、俺達がしてやるよっ」

 ハヤテがおびき寄せるように、隙を作り、攻め込んできた相手を一気に殲滅していった。
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