陽光 その二
□苦難
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ある宝の情報を求めて立ち寄った港。
四泊五日で宿に泊まることになった初日の夜だった。
宿の自室に戻ったナギは、ベッドに座り込んで、暗闇を見据えていた。
背中を丸め、腿に肘をついて、考え込むように手を合わせる。
シン達の隣の部屋になった時点で、覚悟はしていたはずだった。
背中を向けた壁の向こうから、物音が聞こえてくる。
物音だけで、隣の部屋で何が為されているか、嫌でも判ってしまう。
今、隣にいるシンとヒロインは恋人同士なのだから、一緒の部屋に泊まって、その部屋の中でお互いの愛を確かめ合っていたとしても、文句は言えない。
自分が断ち切れない想いを寄せている相手が、既に幾度もシンに抱かれていることは当然知っている。
けれども。
物音に次第に甘い声が混じるようになってくると、勝手に身体が疼いてくる。
想いを寄せる女の、甘やかな声を聞いて、何も感じないはずがない。
睨むように暗闇を見据えているナギの表情にも、どこか雄の色が漂い始める。
「………」
いま、あいつはどんな顔しているんだろう。
そんな疑問が浮かんできてしまうのを、理性で抑えつけ、静かに、微動だにせず待つ。
どこか欲望が入り混じった視線で闇を見つめる彫像のように。
衣服が擦れる微かな刺激も許さず、身に降りかかる恐ろしいほどの誘惑が通り過ぎるのを。
自らの動きを禁じること以外に何もできずに。
壁を通した声が、ますます甘味を帯びて、高くなる。
耳を塞げばいいのだろうが、それは自尊心が許さない。
逆に、聞こえてくる物音を愉しんでしまえばいいのだろうが、それも自尊心が許さない。
どちらの行動も選べずに、じっと、身体と心を留める。
止まったままのナギは、呼吸をしているかどうかも怪しい。
苦しいのは、この状況なのか、それとも呼吸が止まっているためなのか。
まるで永遠に続くかに思われた時だったが、ひときわ高い嬌声とともに、終わりを告げる。
ナギが、はぁーっと、長いため息をついた。