陽光 その二

□草学
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「たいてい、最後に『ナ』のつく草は食える」

 ナギがとても簡潔に説明してくれて、ヒロインは困ったような顔をした。

「ナギさん…どれが『ナ』のつく草なのか、分かりません」

 立ち寄った無人島。

 トワとハヤテが水を補給する間に、食材を探すというナギと、薬草を探すというソウシ。

 ヒロインは、お手伝いを申し出て二人についてきていた。

「あははは。ナギ、それは私が『薬効のある草は薬草になる』って説明するようなものだよ」

 少し離れたところで屈んでいたソウシが、顔をあげて言う。

「………俺はいいから、ドクターを手伝え」

 いちいち説明するのも面倒だと、ナギは草むらの中へ分け入っていった。

 野草と括られる植物の中で、食用可能な草は多い。

 癖が少なく食べやすい野草は、嫁菜・甘菜・紫花菜・蔓菜・苦菜・豚菜・油菜・芥子菜・晒菜・胡麻菜、と実は名前の最後に必ずナのつく名を持っている。

 野草によっては、食材にできる部分が限られるので、いちいち説明するのは難しい。

 自然な野草の特徴として、一種だけが一箇所に群生していることはあまりなく、多種が点在している。

「………」

 申し訳なさそうに、ヒロインはナギの背中を見送ったが。

「ヒロインちゃん、この辺り、なかなか面白いからおいで?」

 にっこり笑ったソウシが呼んでくれて、ヒロインは、ほっとしたようにソウシの傍へ行った。

「ここ、薬草がたくさんあるから、摘みながら教えてあげるね?」

 ソウシが、小さな紫色の花を指さす。

「これが、『現の証拠』花が咲いてるものは、煎じると食中毒の腹痛に効くよ。根元から摘んでね?」
「はいっ」

 ソウシが、摘むのはヒロインに任せて、数歩移動する。

「今度はこっち。前も教えたけど、覚えてる?」

 小さな丸い花のような葉が、一株、顔をのぞかせている。

「えっと…血止め草?」

「うん。正解。でも、これは生葉に薬効があるものだから、血止めだと覚えておけばいいよ。あ、隣の、この白と紫の可愛い花は、疣草。やっぱり、生葉に薬効があるから、今、摘んでも意味がない」

 少しずつ、移動しながら、ソウシは丁寧に説明を続ける。

 ヒロインは、うなずいたり、時折質問したりと、野草の間を歩きまわる。

 痰切草・一薬草・瘡王、など、薬効のある草がその場所には多くあった。

「あ、これは目草。生葉が疲れ目に効くよ」

「そうなんですか? じゃあ、少し摘んでいこうかな…」

 ヒロインは葉を数枚摘み取って、ポケットへ入れ始める。

「……それは、シンのためかな?」
「あ、わかりました?」

 照れたように笑うヒロインに、ソウシは黙って微笑を返した。

 背を向けたソウシが、葉を摘むヒロインを残して、再び移動する。

 ほんの少し、ソウシのヒロインに対する気遣いの意識が反れた一瞬の隙。

「わきゃぁっ」

 驚きの悲鳴をあげて、ソウシの後ろで、ヒロインが盛大に転んだ。
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