陽光 その二
□累及
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朝食で集まった時のことだった。
「おはよう、ヒロインちゃん」
食堂に入ってきたソウシが、にこやかに挨拶をする。
「あ、おはようございます、ソウシ先生」
料理の皿を卓上に並べていたヒロインは、いつものように笑顔で応じた。
「今日も抱きしめたくなるくらい、かわいい笑顔だね」
「あはは…。そんなこと言ってくれるのは、ソウシ先生くらいですよ」
照れたように言葉を返して、ヒロインは厨房に料理の皿を取りに消える。
先にテーブルについていたシンが、チラリとソウシを見た。
「シンも、おはよう」
にっこり笑って挨拶するソウシに、他意は見えない。
「今朝は随分と機嫌がいいんですね」
シンの言葉に、ソウシはいい夢を見れたからね、と答えてテーブルに置かれたメニューに目を落とした。
ソウシが無駄にヒロインを褒めるのは、今に始まったことでもない。
昨日も、ソウシがまるで告白のような褒め言葉をヒロインに言っているのを、たまたま聞いたが…挨拶のようなもの、らしいから、無駄に嫉妬を煽られるのも馬鹿馬鹿しい。
シンは、そう自分に言い聞かせながら、再び皿を運んできたヒロインを見た。
ソウシの褒め言葉が嬉しかったのか、今、厨房へ行っている間にナギに褒められたのか。
どことなく鼻歌が聞こえてきそうだ。
自分以外の男に褒められているのも厭だが、それを喜んでいるのがまた気に食わない。
少しムッとした表情をしたものの、シンは平静を装って朝食を過ごした。
それでも、ささやかな不機嫌は、しっかりとヒロインに伝わったらしい。
時々、様子を覗うように、チラチラと見てくるヒロインにシンも気づいたが、気付かぬふりを続けた。