蒼い月の物語
□伍
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ユリウスおじさんが封印を解いてすぐに二人で下に降りた。本当に地下室だ。
『…私は先に行きますね。』
アルカードが私の手を掴み蒼真より先に行く。私も何も言わずについてゆく。
「あっ名無しさん!」
『…なんでしょう?』
出来るだけ蒼真に対して冷たくあたる。悲しそうに此方をみた蒼真を見て申し訳ない気分になる。けれどアルカードは私を心配してくれているから私は何も言わない。
「あの…」
『私は私を信頼してはくれない人と共に行くつもりはありません。』
私の言葉に酷く傷付いたらしい蒼真は下を向いてしまった。私は一応異世界から来ていて未来を知っているのに。…彼は私を信用しなかった。
「ちがっ!」
『違わないでしょう?…信用の無い人物と共に進むのは貴方にとってもマイナスになるでしょう?』
きっとあれは違ったんだ。ただの勘違いだったんだよ。蒼真くんはみなさんが好きで本当は私なんて好きじゃないんだよ。
「名無しさん。」
『分かった。』
蒼真くんの横を通り過ぎ、有角についていく。
『ユリウスおじさん…行って来ます。』
挨拶をして地下に向かって飛び降りる。
「名無しさん…つらいか?」
『…少し。でもアルカードの言うとおりだよ。』
彼は少し頭を冷やしたほうがいい。そうアルカードが言うので従ってみた。はっきりいってデスとの戦闘の直前くらいには合流したい。
「…そうか。名無しさん、けがはもう大丈夫か?」
『ちょっと腫れただけだよ。…ありがとう。』
別に蒼真は悪くない。私が言わなかったことが悪いんだ。しかしアルカードはそうは思っていないらしく怒ったままだ。
『有角あのさ、この先で私蒼真を待とうと思うんだけど…。』
「…なぜだ?」
『さっきも言ったけど私だって悪いわけだし…というか蒼真は悪くないし。…だめかな?』
しぶしぶ有角は承諾してくれた。でも蒼真が謝るまで私から謝っちゃだめって言われた。
『…お母さんみたい。なんだか。』
「こんなめんどくさい子供はいらないな。」
『そう?私は有角だったらお兄ちゃんだったらいいかもとは思った。』
「…騒がしい妹だ。」
『ひっどい!』
有角と二人で話しているのはとても楽しいけれど何かが違う。なぜだかそう感じた。
「やはり寂しいか。」
『ふおい!?』
突然変なこと言うから思わずどっかに飛んでいく変態30と似たような台詞を放ってしまった。
「…なんだそのキシン流は。」
『だまれゴキカード。…寂しいってさっき別れたばっかりだよ。』
確かにすこし寂しいとはおもったけどさ。別にそういうんじゃないんだ。違うんだよ。
「…此処ででも待っているといい。」
あっさりとベリガン、ギャイボンを通り抜けた有角は私を放置するとどこかに行ってしまった。
『…どうやってこの先に進むんだろう。』
だってこの先にはデスがいるわけだし。…少し心配になってきた。から部屋から出ようとすると向こうから蒼真がやってきていた。そしてさっと小部屋に入ってきた。
「…あっ。」
『あっ…。』
私が話をしようとしたら突然蒼真が頭を下げた。
「ごめん。…俺、名無しさんの気持ちを考えてなかった。」
『そんな…私だって言わなかったのが悪いんです。』
私が言うと蒼真は首をゆっくりと横に振った。私の目を見てしっかりと言葉を発する。
「有角にもこっぴどく叱られたしユリウスにも怒られた。…女性に手をあげるなんて最低だ。」
なんていうか…紳士すぎですよ蒼真くん。だって悪いのは私であって彼は何も悪くないのに。でも私は最低だから悪くない彼を悪者扱いする。
『…みなさんが大切なのはわかります。…でも、私だってここにいるんです。』
それだけが気がかりで、どうしようもなかった。私はここにいる。でもそんな事当たり前で蒼真くんを悪者扱いするための言葉のように思えた。
『ずっとみなさんばっかりで、わっ私は嘘で、蒼真くんは寂しくて、私を…。』
今はあの時と違ってここにいるのに。画面の向こう側の世界じゃないのに。私はここにいなくて。居る意味が無くて。じわじわと心を侵蝕してゆく感情はきっと不安と悲しみと少しの嫉妬。そして彼への罪悪感。そんなどす黒い感情が沸き起こる私はやはり最低だろう。
「名無しさん。」
蒼真が名前を呼ぶ声は何時もと同じで逆に酷く身体が震えた。