蒼い月の物語

□伍
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「…待っていてくれてありがとう。」



頭が言葉の拒否をする。なんで感謝されてるの?…私は最低最悪なのに。



「ごめんな。名無しさんはそんな奴じゃないのに。」



頭をふわりと撫でられて、張り詰めていた空気と神経が切れた。




『私、蒼真を悪者扱いして!最低なのに!なのに…。』


「もういいよ、わかったから。」



蒼真は私の頭を撫でながら此方をみる。言葉を発したくても出るのは空気の塊だけだった。そっとまるで壊れ物でも扱うかのように抱きしめられる。…体温を感じた。




「名無しさんのことはちゃんと大好きだから。…泣かないでくれ。」




優しさをたくさん含んだ声。砂糖をたっぷり入れたホットミルクのように温かくて甘い声。



『…うん。』




本来なら許されない筈なのに、私はそっと彼の背中に腕をまわした。









「…落ち着いたか?」



『…ありがとう。大丈夫だよ。』




まだまだこの暖かい腕に抱かれていたいけれど、そういうわけにはいかないから。



「此処から出たら沢山してやるから。…そんな残念がるなって。」



ふわりと髪を撫でられる。…なんだかそれだけでこの場所が素晴らしく感じる私はきっと重傷。



『…ん。』



部屋を出る時に引き上げてくれた手の温もりに頬が染まる。…なんて乙女みたいで恥ずかしくなった。




で、デス戦の前まで来た。私が指示を出し、蒼真がそれによって戦う何時ものスタイルだ。





「名無しさん、頼んだぞ。」



『わかってる。』




敵が鎌を回した瞬間に蒼真に指示を出した。私に向かって飛んできた小鎌はぶっ壊した。




『上に飛んで!』




私の声も虚しく蒼真に骸が当たる。地面に叩きつけられる蒼真の身体。ゆっくりと広がる血の池。考えるより先に動いた体。




『…消え去れ、雑魚が。』




強制的に体の内側から魔封陣を取り出して封印する。成功確率は低く、全く役にたたなかったが見事に敵は消え、ソウルは蒼真の体に飛び込んだ。




『蒼真!』




近寄ると打ち所が悪かったらしく気絶をしていた。が血の割に傷は浅かった。




『良かった…。とりあえず治療しないと。ポーションポーション。』



青い液体の入った硝子瓶をバッグから取り出す。その液体を綿に染み込ませて傷を拭く。この液体は傷の痛みを感じさせない工夫で多少麻酔成分を含んでいるらしい。
すべて拭き終えてから地面に転がしたままなことに気付いた。



『…私の上着でいいよね。』





上着を枕替わりにして蒼真を改めて寝かせる。傷の痛みが無いからか安心して眠っている。この奥から禍々しい闇が漏れ出ているのが分かる。




『…やだな。』




私ひとりで構わないのに。蒼真はこのまま帰って平凡に暮らして欲しい。




「…敵がいない。…名無しさん?」




いつの間に気がついたのか蒼真が此方をみていた。眉間をとんと叩いて蒼真は言った。




「皺よってる。…どうしたんだ?」



『…起きたんだ。敵なら倒したよ。蒼真は心配しなくていいの。』





どうやら傷はもういいらしく起き上がるとすたすた歩き始めた。




「ありがとな。」


『どういたしまして。』




はっきり言って不安しかない。この先は地獄だ。心優しい蒼真には苦しいものしかないと思う。あんな事がこの先おこるのだから…。




「名無しさん?」



『ん?どうしたの?』



「やっぱり何かあったのか?」




いけない。また心配させてしまった。大丈夫なのに。




『ううん。大丈夫。ほら、行くんでしょう?』




行ってほしくないけど、行かないといけないからしょうがない。




「…あぁ。そうだな。うん。」



そしてそのまま歩き出そうとす蒼真を私は止めた。





『ちょっとまって!』




此処から先はどうしてもあのソウルがあったほうがいいからね。
思い出してよかった!そう思いながら蒼真を引っ張ってとある場所まで行く。
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