雨漏り食堂

□毒吐く独白
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僕――南京 真智が、黒乙女に出会ったのは、僕がまだ幼稚園児の頃だ。

僕は、他より身体が華奢(きゃしゃ)だからか、よくまわりの男子にからかわれていた。

あの日も、確か男子に転ばされて、泣いてしまった僕をまわりが指を指して、笑っていたんだと思う。

確か、とか、思う、というのは、僕はその日、彼女に出会ったこと以外、まったく眼中にないからだ。

立ち上がろうとした僕を再び、転ばせようと近づいてきた奴の間に、黒い人影が立ちふさがった。

その人は、綺麗な黒髪で、さらさらと、風になびいていた。


「弱い奴ほど、集団で行動するとは、よく言ったものだわ」

「な、なんだよ!しあかよ!」

「こんなくだらないことしている暇があるなら、本でも読んで、その空っぽの頭に知識でも詰め込んでいなさいよ」

「うるせぇな!じゃまするなら、おまえも、こいつとおなじめにあわせるぞ!」


幼稚園児とは思えないほど、大人びていて、美しかった。

こぶしを振り上げた奴を軽く止めて、背負い投げを披露した。

あぁ、
なんて、美しいんだろう

その後も、殴りかかってくる奴らを時代劇の侍のように、次々と倒していった。


「ちっ…に、逃げるぞ!」


奴らは、情けない後ろ姿で、逃げていった。

そして、差し出される手。


「ほら、立てる?」

「あ…ありが、と…」

「別に…たいしたことじゃないわ、気にしないで」


そう言って、笑った彼女に、僕は心を奪われた。

その後、彼女はふっと糸が切れたように、その場に倒れ込んだ。

僕は、慌てて先生を呼びに走った。

そして、目覚めた彼女が、僕を見て、一言。


「…だれ…?」


彼女の美しい声も、美しい顔も、仕草も、何一つ別人のものだった。

同じ顔なのに、彼女たちはまったくの別人だった。

これが、僕が、初めて彼女に出会った日のことだ。
















それから、あの美しい彼女が現れることはなかった。

僕は、考えた。

どうしたら、彼女が現れてくれるのかを。

そして、思いついた。

別人格は、もとの人格を守るために生まれるらしい。

だから、僕は決めた。

彼女が守るべき対象の肆亜に害を加えれば、きっとまた現れてくれる。

僕は、知っているよ。
君の本当の名前。

黒乙女なんかじゃなくて、君は――。
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