復活する人。

□卒業の、日。
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【卒業の、日。】

まだまだ肌寒い三月の今日、綱吉達は並盛中学を卒業する。
式典が終わって各々が帰途につく中、相変わらず綱吉は獄寺・山本と一緒にいた。
「あーっ、やっと終わりましたね十代目」
「うん、そうだね」
「思ったより、あっさりしてたな」
大欠伸をする獄寺と豹々としてい山本に挟まれ、綱吉はふっと表情を緩める。
「でも…」
「獄寺くーんっ!」
「武ぃ〜」
何か言おうとする綱吉を遮るように、女の子の黄色い歓声が上がる。
「げっ!」
「ん?」
「獄寺くん山本くん、記念に第二ボタン頂戴!」
「あっ、狡い!」
「抜け駆けしないでよ!」
「ね、ね、写真一緒に撮ってぇ〜」
最後に記念を作ろうと獄寺と山本に群がる女子に、綱吉はあっさり弾かれてしまう。
「わわっ」
倒れそうになるのを何とか堪え、綱吉はさっと身を引いた。
輪の中心で頭一つ以上突出している獄寺と山本に、綱吉は声を出さず唇だけで「後で」と伝える。
二人とも、困ったようなくすぐったいような顔で頷いた。
綱吉は二人に背を向けると、足速に教室へと向かって行く。
「何だか、忘れ物を取りに行くみたいだ」
在学中頻繁にやったミスを思い出し、笑みが零れる。
長くて、短い三年間。
ダメツナと呼ばれた自分が、いつの間にか…
「ツナくん」
「え? あ、京子ちゃん…」
「良かった、やっと見つけた」
息を切らして笑う京子の姿に、綱吉は一瞬声を失う。ずっと、ずっと、想い、慕い続けた人が、自分の事を探していた。
それだけで、嬉しい。
「どうかしたの?」
「うん。ツナくんに言いたいことがあって」
どきり、と心臓が跳ね、顔に血液が集中して、耳まで熱くなる。
「俺に…?」
喉がからからに渇いて、言葉をうまく紡ぎ出せない自分に苛立つ。
あと少ししか、時間は残されていないのに。
綱吉と京子は別々の学校へ進学する。京子は地元の並盛高校へ。綱吉は、ディーノも通っていたというイタリアのハイスクールへ。もっとも、あちらは九月が入学なので、始まるまでの半年間は、向こうで徹底的に語学を勉強するのだ。
綱吉は近い内にイタリアへ立つ。獄寺は当然ついて来るが、山本は高校を卒業するまでは日本に残る。
「いつ、イタリアに行くの?」
「四月までには…暫くは帰って来れないから満喫しとけって、リボーンが…」
「そっか」
泣き出す寸前のような、何かを堪えた顔で、京子は綱吉を真っ直ぐに見つめた。
「ツナくんに、お願いがあるんだ」
「俺に出来ることなら」
「ツナくんにしか、出来ないことだよ」
京子はにこりと笑うと、真っ直ぐ右手を伸ばす。
「握手してください」
「握手?」
「うん。ツナくんの優しい温もりを忘れてしまわないように。ツナくんのこと、ずっと好きでいられますように」
京子のさりげない告白に、綱吉は数瞬遅れて盛大に反応した。
「えぇっ?!」
「私、ずっとツナくんが大好きだから…」
「う、嘘」
「本当だよ」
驚き慌てる綱吉に、京子はくすりと笑う。
京子のよく知っている綱吉の姿に、安堵したのだ。黒曜中に乗り込んで以後、京子は綱吉が危険な事をしているのではないかと、いつも不安でいた。
事あるごとに増える生々しい傷跡。優しい風貌に似合わないそれは、綱吉の成長の証でもあったけれど、厄介事に巻き込まれて抜け出せなくなっている証拠でもあった。
「三年間、ありがとう」
「京子ちゃん…」
二人きりの教室で、感情を押し殺したような二人の声はひどく響いた。
(どうしよう、揺れる)
綱吉は差し出された右手を見つめ、堪らなくなって京子を抱きしめた。
「ツナくん?!」
「ごめん。少し、こうしていさせて?」





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