銀色の人。

□【再び会う】
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一度失った絆を再び取り戻すのは容易な事ではないだろう。
けれど、どうしても行かなければならない。







【再び会う】





某日夜。
銀時はいかにも怠そうに腹の辺りを掻きながら、コンビニまでの道を歩いていた。

「ったく、めんどくせぇ。何でじゃんけんに負けた奴が買い出しなんだよ。高校生のイジメか?」

愚痴を零しても、それを耳にする者はおらず、何か生き物らしき鳴き声が夜闇にこだまするだけだ。

「はぁ〜…ん?」

ふと、路地裏の方に目をやると、男が四五人固まって下卑た声を上げている。
輪の中心には、小柄な人影ーー。

「おいおいカツアゲかよ…」

銀時は厄介事に巻き込まれるのはごめんだと、見ぬふりをしようとして…失敗した。
厄介事に首を突っ込んでしまうのは、性分なのだ。

「おーい、そこの兄ちゃんよぉ…」

ずかずかと彼等に向かっていくと、突如輪になっていた男達が銀時の方へ吹っ飛んで来た。

「ぬぅおあっ!」

奇声めいた悲鳴を上げて、銀時はそれをギリギリで避ける。

「え?もしかして俺の声で?銀さん唐突にエスパー??」

銀時がわけもわからず立ちすくんでいると、男達に囲まれていた人影が振り返った。

「まだいたの?
しつこいわね。誰に喧嘩売ったか教えて…え、あ、銀ちゃん?」
「へ?」

銀時が素っ頓狂な声を上げると、こつこつと足音を立てて人影は銀時に近付いて来た。

「やっぱり、銀ちゃんだ」

嬉しそうに笑った人影は、黒髪に黒い瞳の、美人ではあるが特徴の無い顔立ちの女─寧ろ、少女と言うべきか─だった。
名前を呼ばれたからには知り合いなのだろうが、少女が誰なのか、銀時には全く検討がつかない。

「あー、もしかして…」
「お店の女の子じゃ無いわよ」

銀時は言わんとした言葉を取られ、「うっ」と呻いて半歩下がる。

「相変わらずだね」

にこりと笑った少女のその表情は、確かに銀時の記憶を刺激するのだが、何か大きな矛盾を孕んでいるようで、はっきりとしたものが掴めない。

「やっぱり10年も経つと忘れちゃうよね。ね、銀ちゃんこの傷覚えてる?」


ぐいっと前髪を掻き上げた少女の額には、うっすらと傷痕が浮かんでいて、ようやく銀時の記憶が蘇る。

「なっ、お前まさか、……遼か?!」
「当たりっ!」

少女─遼は、勢いをつけて銀時に飛びつく。銀時は少しよろけたものの、しっかりと遼を抱き留めた。

「久しぶりっ!」
「おー。つーかお前、こんな所で何してんだよ?」
「えーっとね、散歩?」
「何で疑問系なんだよ…ったく、仮にも女の子がこんな時間にこんなとこうろついてたら変な奴らに…って、お前さっき絡まれてただろ!」

はたと状況を思い出して、銀時は吹っ飛んだ男達を振り返り、言葉を失う。
比較的近くに倒れていた男は泡を吹いて倒れており、顔面には殴られたあとが痛々しい。

「自分の身くらい、自分で守れないとね」

自信満々に胸を反らす遼に、銀時の表情が引き攣る。

「(おいおい、俺の周りの女はこんなのばっかりかよコノヤロー)」
「父さま譲りの武術だもん。大抵の生物は敵じゃないよ」
「お前、生物って…何と戦うつもりだよ」

呆れた銀時が溜息を吐くと、遼は一層強く銀時にしがみつく。その体が震えている気がして、銀時は遼の背中を優しく撫でた。

「まー何だ。元気そうで良かったよ」
「うん。ありがとう銀ちゃん……」

遼は銀時の肩に顔を埋め、懐かしさに目を閉じる。

「なあ遼、うちに来るか?」

銀時の問いに、遼はしばし逡巡する。
けれど、答えなど始めから決まっていた。
その為に、江戸に来たのだから。

「……行きたい」
「よし。じゃあ行くか。…っと、その前にコンビニ寄るからな」


銀時がそう告げると、遼は頷いて銀時の後をついて歩いた。





……………
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