銀色の人。

□【万事屋銀ちゃん】
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風向きが変わっていく。
きっと、良い方へ。







【万事屋銀ちゃん】







所変わって同時刻の万事屋では、新八と神楽が中々帰ってこない銀時に苛立ちを募らせていた。

「買物も満足に行けないアルか、あの天パは」
「銀さんに任せた僕が馬鹿だった」
「わんっ!」

不意に定春が玄関の方に向かって吠える。

「帰って来たみたいアル」

神楽は酢昆布を食べる手を止めて定春と共に玄関に向かう。

「定春、今日は特別に銀ちゃんに噛み付き放題アル。ただし、アタイの酢昆布に手ぇ出したら承知しねぇがな」
「神楽ちゃん、標準語になってるよー。まぁ、程々にね」

新八はソファに座ったまま、銀時を痛め付けようと意気揚々としている神楽と定春に声をかける。
神楽が定春を連れて玄関に着くよりも早く、扉が開いてその人物が立っていた。

「おー、今帰ったぞ」
「おせーんだよこの天パ!行くネ、定春!」
「ガウッ!」

神楽の指示に一声吠えた定春は銀時の頭にがぶりと噛りつく。

「おーいお前、買物から帰って来た家主にこの仕打ちはねーんじゃねぇか。つーかおい、何か目の前真っ赤なんですけど…」
「大丈夫、銀ちゃん?」

銀時の後ろからひょこっと顔を出した少女は、特に心配そうな様子もなく、頭から血を流す銀時に尋ねる。

「いや、遼、何でお前この状況初見なのにそんな冷静なの?」
「いや、だって銀ちゃん慣れてるっぽいんだもん」
「慣れるかっ!」

定春を引き剥がして叫ぶ銀時と、その隣で笑う遼。神楽はその光景を口を開けて見ている。

「………」
「どうしたァ、神楽?」

不審に思った銀時が神楽の前で手を振ると、現実に引き戻された神楽が銀時の胸倉を掴んで締め上げた。

「こんな時間に幼気な少女を家に連れ込むなんて何考えてるアル!」
「どわっ!」
「うわぁ…」

銀時の顔に減り込んだ神楽の拳を見て、遼は目を瞬かせる。

「やっぱりマミーの言う通りネ!男はみんな狼の皮を被った変質者ネ!」
「それ被る必要ねェだろっ!」

殴られた頬を押さえてツッコむ銀時に、神楽は侮蔑を込めた冷ややかな視線を向ける。

「そんな子に育てた覚えないアル。もう帰ってこないでヨロシ」
「俺だって、お前に育てられた覚えねェよっ!」
「私だって育てた覚えないアルよ!!じゃあ私、関係ないアル!」
「何だそれ!何だこの不毛な争い!」

銀時と神楽のやり取りを見ていた遼は、思わずぷっと吹き出す。

「テメッ、笑うな遼っ!」
「ごめん、何か楽しそうだなって思って」
「眼科行ってこい」

三人がそんなボケだかマジだか天然だかわからないやり取りをしていると、痺れを切らした新八が玄関にやって来た。

「銀さんも神楽ちゃんも、夜中に玄関先で騒がないで下さいよ。また近所に文句…──」
「神楽と同じ反応すんじゃねぇよ」

遼を目に止めて硬直している新八に、銀時はいかにも怠そうに頭を掻く。

「こいつは店のねぇちゃんじゃねぇぞ。ほれ、遼挨拶」
「あ。初めまして、神武遼です」
「あ、どうも。志村新八です」

ぺこりと頭を下げる遼につられ、新八も自己紹介をする。

「私は神楽ネ。結局遼は銀ちゃんとはどういう関係アルか?」
「どういう関係…?」

答えに困った遼は、銀時を見上げる。
しかし、銀時にも二人の関係を明確に表す……相応しいと言える言葉が見つからず、がりがりと頭を掻いた。

「まぁ、なんつーか…妹、みたいなもんか?」
「それが一番近いかもね」

同意した遼の頭を、銀時はぐしゃぐしゃと撫でる。

「わっ。どしたの?」
「別に〜。じゃ、上がれよ」
「あ、じゃあ僕お茶用意してきます」

ぱたぱたと部屋に戻って行く新八と、腹を掻きながらも遼の荷物を持って居間に向かう銀時の背中を、遼は何とはなしに見つめる。

「酢昆布は好きアルか?」
「へ?」

唐突に掛けられた質問に、遼はキョトンとした顔で神楽を見た。
神楽はニコニコと遼の答えを待っている。

「えっと…好きだよ。基本的に食べられない物無いし」

素直にそう答えた遼に、神楽はぱあっと顔を輝かせる。

「神楽ちゃん、酢昆布が好きなの?」
「当然アル!あの酸っぱい匂いがクセになるヨ!それに、酢昆布好きな人に悪い人いないネ」

嬉しそうにはしゃぐ神楽に、遼は「じゃあコレあげるね」と、先ほどコンビニで買物した袋を神楽に渡した。

「なにアルか?」
「一応、手土産かな」
「おーっ!お菓子いっぱいアル!!す、酢昆布が五箱もあるネ!すごいヨ、今日は酢昆布祭ネ!」

はしゃぐ神楽は、勢いのまま遼に抱き着く。

「わっ」
「大好きアル!今日から私と遼は友達アル!!」
「ありがとう」

懐いてくれるのが嬉しくて、遼も神楽を抱きしめる。

「お〜い、女同士でいちゃいちゃすんな」
「羨ましいアル?」

にやりと笑った神楽に、銀時は露骨に顔をしかめた。
その表情に満足したのか、神楽は遼の手を引いて室内に連れて行く。

「早く入るアル」

遼が靴を脱ぐのももどかしいといった様子の神楽に、遼は嬉しそうについていく。

「神楽ちゃんは、酢昆布以外に何が好き?」
「ごはんですよアル。後はふりかけと…」

楽しそうに遼に話し掛ける神楽に少し驚きつつ、銀時は二人の向かいに座る。

「で、神武さんはどうして万事屋(うち)に?」

お茶を出し終えて銀時の隣に腰を降ろした新八に尋ねられ、遼は「遼で良いよ。私も新八くんって呼ばせてもらうから」と笑顔で前置きし、銀時に向き直った。

「銀ちゃん、「真選組」って知ってる?」
「あー、あのヤクザな」
「いや、あんたの方がよっぽどヤクザな商売してるじゃないですか」
「遼、あのサディストに何かされたアルか!?」

つまらなそうに答える銀時と、必死の形相で自分に詰め寄る神楽に、遼は「知り合いがいるの?」と首を傾げる。

「アイツらは敵アル!」
「え…」
「遼さん本気にしないで下さい。ただちょっと腐れ縁で…銀さんも神楽ちゃんも、個人的に反りが合わないだけなんです」

フォローする新八に、少しがっかりしたような表情で遼は「そっか」と笑う。

「で、真選組にどんな用事なんですか?」

すっかり興味を失った銀時に代わって、新八が尋ねると、遼ははっきりとした声で「真選組に入隊したくて」と答えた。

「なっ!」
「正気ですか?!」
「自殺行為アル!」
「え、や、いや…」

目を剥いて驚く三人の様子に、遼はあたふたする。





……………
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