銀色の人。
□【有給休暇】
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過去をほじくり返すなんざ趣味じゃねぇが、それはきっと、俺が知っておかなきゃならないことなんだろう。
【有給休暇】
「坂田さーん、郵便でーす。書留なので、判子かサインお願いしまーす」
よく晴れた日の朝、万事屋に一通の手紙が届いた。
銀時は差出人に覚えが無かったが、開封して成る程と頷く。
差出人は、遼の世話をしていた人物だ。
読む限り、銀時に京まで来て欲しいという内容だった。
「京ねぇ。行く、つったって足がねぇしなぁ。ん?」
はらりと、手紙の間から1枚の紙が落ちる。
「何だァ……?!」
拾いあげて、銀時は目を見開いた。
紙に書かれたのは『小切手』の文字と『百万円』という金額。
手紙の終わりには「旅費の足しにお使い下さい」の一文。
「マジでか」
大金に手が震えた。
京に小旅行して、置屋に立ち寄るだけで百万円。
旅費と依頼費だとしても、十分過ぎる。
「ん?手紙にまだ続きがあるな」
『PS.10月9日までに来なかった場合、依頼放棄として日本中の遊女、芸妓のネットワークを駆使し、世界中から貴方に刺客を送ります。どうぞ御自愛下さい かしこ』
「かしこじゃねぇぇぇぇぇェ!何だコレ、依頼じゃなくて、脅迫状じゃねぇか!!って10月9日って、明後日ぇ!タイムリミット短すぎんだろこれぇぇェ!!」
「朝からごちゃごちゃうるせーアル」
「ひでぶっ!」
寝起きの神楽に背中蹴られ、床に落ちた。
朝からなんなんだ。
そういえば、今日の占いまだ見てなかったな、なんて事を考えていたら、事務所のテレビから結野アナの声が聞こえる。
「……今日一番ツイてないのは天秤座のアナタです。今日からびっくりするくらい厄日です。特に、二十代男性で、自営業、甘党で木刀を所持しているあなた。手紙に気を付けないと、来週死にまーす。ラッキーアイテムは、え?もう時間がない?それでは良い週末を〜」
「送れるかァァァ!」
肝心な所を言ってない。
そもそも死を回避するラッキーアイテムって何だ?!
流石に結野アナにもツッコんでしまう。
「ヤベーよ。俺マジでヤベーよ」
「何言ってるアル、銀ちゃんは既に色々ヤバいネ」
「おはようございまーす。って、朝から玄関で何してるんですか?」
打ち拉がれる銀時に、新八は「騒いでると、またお登勢さんに叱られますよ」と、部屋に入り付けっぱなしのテレビを切った。
「今日はまだ、依頼は来てないんですか?」
「依頼どころじゃねーよ!銀さん現在進行形で大ピンチなんだよ!」
「家賃も給料も滞納してますからね」
「う゛っ」
「銀ちゃーん、もうお米ないアル」
空の炊飯器片手に現れた神楽に、銀時は覚悟を決める。
金が要るのだ。背に腹はかえられない。
「新八、神楽!」
「うわっ、どうしたんですか」
「二、三日留守にする」
「どこ行くアルか?」
「地獄」
そう答えると、銀時は足取り重く準備を始めた。
手紙には詳しい依頼内容が示していなかった為、向こうの目的はわからない。
悩ましいと思っていると、電話が鳴り響いた。
「はい、万事屋銀ちゃんです。あ、遼さん、おはようございます。銀さんですか?」
「銀ちゃーん、電話アル」
呼ばれて受話器を受け取る。
『銀ちゃん、朝からごめんね。そっちに手紙届いてない?』
「届いてるぜ。何なんだこれ?」
『銀ちゃんにお礼がしたいって言ってたんだけど……書いてなかった?』
「……書いてなかったな」
思い出しても、そんな一文は無かった。
ただの脅迫状だった。
「で、結局俺はどうすりゃいいって?」
『一緒に京まで行ってもらえるかな』
「ま、そうなるよな」
『ごめんね』
「いいよ。でも、すぐ出られるのか?」
『うん。今日は元々非番だし、さっき局長に話してお休み貰ったから。じゃあ、迎えに行くから待っててね』
そう言って切れた電話を置くと、銀時は荷物を纏めて新八に米代を渡すと「行ってくる」と、万事屋を出て階下へ降りる。
結野アナの占いのせいではないが、どこか不安な気持ちが押し寄せて、銀時はもう一度手紙を開いた。
「京か……」