銀色の人。

□【語―カタリ―】
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「周雖旧邦
 其命維新」

 周は旧邦なりと雖も 
 その命
 これ新たなり



       「詩経」大雅・文王篇










【語】









神武遼
右の者、隊規違反により謹慎処分とす。
期間については追って連絡する為、屯所内で待機すること。

掲示板に貼り出された訓告は、瞬く間に隊士達に伝わった。

「隊規違反って、何したんだ?」
「密告とか〜スパイ行為とか?」
「それじゃあどっちも同じだろ」

隊規の何を違反したのかが明示されていないため、隊士達の口から口へと噂が伝播し、日が暮れるころには「遼は監察の特権を悪用し、隊士達の弱味を握った挙げ句、隊長格の隊士数名と副長を掌で転がす悪女で、なんやかんや有ってお宝を盗んで行った」という話になっていた。
噂を聞いた山崎は、これは大変だと、土方に報告すべく副長室に向かうと、都合良く近藤や沖田も集まっていた。

「何その噂?え?何処の峰不二子の話?」
「つーか、何で俺が掌で転がされた事になってんだ。ルパンか俺は」
「任務中にこっそり二人でアイス食ってんのは転がされてる事になんねーんですかィ?」
「アレはジェラート……じゃなくて、何でテメーが知ってんだ総悟!」
「え?トシ、お前そんな事してたの?」
「そうなんですよ、近藤さん。仲良く食べさせあってたのを俺はこの目でしかと見ましたぜ」

え、そんな事までしてたの?、と近藤と山崎の視線が土方に向けられる。

「ゴホンッ、えー、アレには深い訳が有ってだな……」
「これが証拠の写真でさァ」
「総悟ォォォ!」

沖田の携帯の画面には、口を開けた遼に土方がアイスを食べさせている写真が。

「……」
「…………」
「何か言えよォォォ!」

冷めた目で土方を見つめる近藤と山崎に、土方は堪らず叫ぶ。

「いや、何か、触れちゃいけないのかなって」
「すみません副長、俺にはこれにツッコむスキルは無いです」
「じゃあ土方さん、この写真は隊士全員に送信しておくんで。はい送信」

ピロリン
ピロリン

「あ、写真きました」

携帯を開いた山崎は、メールに添付された写真を確認し、「よく撮れてますね」と感心した。
その一言が、土方の怒りに火を付ける。

「山崎ィィィィ!!」
「何で俺ェェェ?!」

特に何もしていないが、例の如く山崎がボコボコにされた。

「それにしても、トシと遼ちゃんはすっかり仲良くなってたんだな」
「全くでさァ。最初は化けの皮剥がすとか言ってたのに、すっかり籠絡されちまって。鬼の副長の名が泣きますねェ」
「いいじゃないか、仲が良くて。総悟だって休みの日は専ら遼ちゃんと出掛けてるんだろ?」
「べ、別に、たまたま休みが一緒なだけでさァ」

ツンデレを体現したかのような沖田に、近藤は「仲良きことは美しきかなだな」と笑う。

「でも流石に、その噂はマズいな」
「何でですかィ?」
「遼ちゃんの不利益になるってのもあるが、妙な噂で隊内が浮き足立つのは危険だからな」

珍しくまともな考えの近藤に、沖田は数度瞬きする。

「近藤さん……」
「総悟、俺はな……遼ちゃんを信じた俺を信じてる。だからあの子が抱えている物を、俺は知りたい」

どこまでも真っ直ぐな近藤に、沖田は目を細める。
近藤が『近藤勲』である限り、沖田は、真選組は、真っ直ぐでいられる。

「遼ちゃんが攘夷浪士と関わりがあるとわかった以上、話をしないとな」
「じゃあ俺が遼を連れてきますよ。局長」
「ああ、頼んだぞ総悟」

ひらひらと手を振って出て行く沖田を見送り、近藤は手元の報告書に目をやった。
『神武遼に関する報告書』
そう題された数枚の資料には、遼が高杉一派や桂率いる攘夷浪士と密通していた旨が記されている。

「さて俺も、覚悟を決めるか」
 

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