復活する人。

□卒業の、日。
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回した腕に力を込めて、細くて柔かな京子の体を抱きしめる。その手が僅かに震えているようで、京子は黙って綱吉の背中に腕を回した。
どれほどそうしていただろうか、綱吉は京子を抱きしめたまま唇を震わせる程度の声で言葉を紡いだ。
「俺、ずっと京子ちゃんに憧れてたんだ。ダメツナって呼ばれても、京子ちゃんがいるから学校にも来れた。君の笑顔に、俺はずぅっと救われてきた」
いつもより少し低めの声で紡がれる言葉は、どこまでも優しくて、京子は涙が溢れ出すのを止められない。
「君が、好きだよ」
言い終えた綱吉は、そっと京子を解放する。離れて行く熱が名残惜しくて、ゆっくりと瞬きをした。
(本当は、京子ちゃんを巻き込みたくない。それなのに…未練がましいなぁ)
息を吸って、吐いて。それでも治まらない鼓動を、耳の奥で聞く。
「俺は、笹川京子が好きです。だから…」
綱吉は、祈るように瞳を閉じて、強くて恐い、けれど、いつでも優しい家庭教師の姿を思い浮かべた。
(ごめんなリボーン)
巻き込みたくないのなら、突き放せ。突き放せないなら、とことんまで巻き込め。そのどちらかを選べと言われていた。
(真逆、両想いだなんて思ってなかったからなぁ)
涙を拭う京子の姿に、胸が痛む。泣かせたくない。悲しませたくない。綺麗な所で、綺麗なままでいてほしい。
「俺、イタリアで頑張ってくるよ。いつか必ず、君を迎えに戻ってくるから…気が向いたら、待っててくれないかな?」
我ながら、狡い言い方だと思う。結論を先延ばしにしただけだ。
京子はそれに、即座に答える。
「待ってる。私、絶対待ってるよ!」
「い、いの?」
「待ってるから、絶対帰ってくるって約束して」
京子の、涙で僅かに涸れた声が綱吉は耳に心地良かった。優しい、温かい、心を掴んで離さない声。
「うん、約束するよ」
京子の右手の小指に自分の小指を絡ませて、綱吉はにこりと微笑む。
京子の存在は、綱吉の生きる理由に、そして、日本に一日でも早く帰ってくる理由になった。
「毎日、連絡する。毎日、毎時間、一瞬だって、君のことを忘れない」
「私も、ツナくんのこと…いつでも想ってる」
京子の大きな瞳が揺れて、瞬き一つで大粒の涙が零れる。綱吉は指先でそれを拭って、頬に触れるだけの口接けをした。
「あ…」
「うわっ、ごめん!」
自分の大胆な行動に気付いた綱吉は、顔を真っ赤にして京子から飛びのいた。京子も綱吉に負けないくらい、顔を真っ赤にしている。
あまりの恥ずかしさに二人は目を逸らし、緊張を伴った沈黙が流れた。
綱吉は自分の行動に驚いて完全に飽和状態で、京子も似たようなものだ。
先に冷静になったのは、勿論京子で
「びっくりした」
「ごめ…」
「謝らないで。とっても…嬉しかったから」
花が綻ぶように笑って綱吉の手を握る。そして、何か言いたそうに視線を交わした。
「あのね…」
「お待たせしましたっ!!」
盛大に扉が開かれ、獄寺が大声を張り上げる。
「中々解放して…って、もしかして、邪魔だったか?」
獄寺に続いて入って来た山本は、綱吉と京子の雰囲気に気付いて決まり悪そうに頬を掻いた。
「あー…あはは」
綱吉はどうとも答えられず、苦笑して首を横に振る。
空気の読めない獄寺だけがはしゃいで、いそいそと綱吉と自分の鞄を抱える。
「さ、十代目。帰りましょー」
「わ、いいよ、自分の鞄は持つって!」
綱吉は慌てて鞄を取り替えそうとするが、獄寺は「これは右腕(自分)の役目っす!」と離さない。



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