銀色の人。

□【再び会う】
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「でも銀ちゃん、私が急にお邪魔しても大丈夫なの?」
「まぁ狭いけど、お前一人増えた所で変わりゃあしねぇよ」
「一人で暮らしてるの?」
「いや。ガキと犬がいる。後、時々眼鏡が」

面倒臭そうに答えた銀時に、遼は首を傾げる。

「子どもって、銀ちゃんの?」
「バカヤロー、んなわけあるか。アレだよアレ。なんつーか、居候兼従業員だよ」
「従業員って、万事屋の?」
「おー……って、何でお前が万事屋の事知ってんだ?」

驚いている銀時に、遼は「ヅラから聞いたの」と、笑って答える。

「ヅラぁ?
何だよお前、ヅラと会ったのか」
「うん。それから辰馬と…、」

そこで不自然に、遼は言葉を途切らせた。
不審に思った銀時が遼の顔を覗き込むと、遼は泣き出す寸前の子どものような表情で彼の名前を呟いた。
それは本当に小さな声だったのに、銀時の耳には痛い位大きな音になって響く。
遼は黙って銀時の左袖を掴むと、少し引っ張って「行こう」と、銀時を促す。
銀時は些か乱暴に頭を掻くと、盛大に溜息を吐く。その事は、今更悩んでも詮ない筈なのに、心は未だに蝕まれている。

「ごめん銀ちゃん…」
「お前が謝るなよ。訣別し切れない俺が情けないんだからよォ」
「ううん……ごめんね」
「気にすんな」

遼が自己嫌悪に陥っているのを察して、銀時は努めて明るく答えると、遼の頭を優しく撫でた。

「つぅかお前、晩飯食ったのか?」
「食べたよ…あ、ヤバイ、荷物旅籠に置いたままだ」
「旅籠ぉ?」
「うん。今ここに泊まってるの」

そう言って遼が見せたメモには、江戸一番の高級旅館の名前と部屋番号が記されていた。

「おまっ、こんなトコに泊まる金どうやって…!?」
「地道に働いた報酬で。姐さん達が持たせてくれたお小遣いもあるし」
「は?お前一人っ子の筈だろ?」

疑問符を浮かべる銀時に、遼は苦笑して「姐さんって、妓女の人達の事だよ」と答える。

「妓女ぉ?!」
「そう。私ずっと置き屋で働いてたから」
「はぁあっ!?」

遼のトンデモナイ暴露に、銀時は目を見開いて驚く。

「置き屋ってお前!」
「助平。今絶対エロい事想像したでしょ?」
「うっ…」
「私は「働いてた」の。会計兼護衛として。まぁ、たまに座敷に上がることはあったけど、お客を取ったことは一度も無いから」

にやりと笑う遼に、銀時は何とも言えない顔で「そうか」とぎこちなく答えた。

「お給料が破格だったんだもん。子供一人で生活するにしても、何かとお金はいったから」
「一人って、お前母親と一緒に逃げたんじゃ……っと、悪ぃ」
「謝らなくて良いのに。母様が死んだの知らなかったんだから」

そう言って苦笑する遼の頭を、銀時は些か乱暴に撫でると、優しい声で「頑張ったんだな」と言って微笑む。

「っ……反則だよ、それ」

銀時の優しさに、遼は堪えきれなくなって銀時の胸に飛び込んだ。

「銀ちゃ…っ」

堰を切ったように涙が溢れ出して、遼は声を上げて泣いた。
銀時は黙って遼の頭を撫で、そっと抱きしめる。

どれほどそうしていただろうか。遼の泣き声が小さくなり、しゃくりあげ始めたのを見計らって銀時はぽんぽんと遼の背中を軽く叩いた。

「すっきりしたか?」
「ぐすっ、…うん」

銀時が腕を離すと、遼はゆっくり銀時から離れて赤く腫れた目で笑った。

「ありがとう」
「おー。じゃあ、お前の荷物取りに行くか」
「?」

首を傾げる遼に、銀時はふっと微笑って応える。

「子供が旅籠暮しなんて贅沢すんな。落ち着くまで、うちに泊まっとけ」
「い、いの?」

首を傾げる遼に、銀時はにっと笑って「子供が遠慮すんな」と遼の手を握って歩き出す。
遼はその手を握り返すと、照れ臭そうに笑った。



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