銀色の人。

□【万事屋銀ちゃん】
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「遼。よく考え直せ。警察官になりたいなら、大江戸警察でも地方官でも何でもいいだろう?」
「そうですよ。何でわざわざあんな…ガラの悪い集団に」
「あんなとこに入ったら、あのサドに何されるかわかんないアル!」
「でも…私の「したい事」は、真選組じゃないと出来ないの」

揺るがぬ口調で答える遼に、三人は表情を曇らせた。

「お前の「したい事」ってのは、何だ?」
「いつか、話すよ」

そう言ってぎこちなく笑った遼に、銀時はそれ以上追究できず口篭る。
それを横目に見ていた新八は、遠慮がちに話を切り出した。

「遼さん、僕たちに依頼をする気はありませんか?」
「え?」
「僕たちは個人的に真選組の局長と知り合いなんです。確実に連絡を取る方法も持ってます」
「何言い出すアル!」
「焚きつけるような事すんじゃねぇよ!」

積極的に遼を真選組に紹介しようとする新八を、銀時と神楽は慌てて止めようとするが、新八に「少し黙ってください」と凄まれる。

「入隊できる保障はありません。けど、僕たちなら…と言うか、銀さんなら、遼さんが無茶をしようとするのを止められますし、僕や神楽ちゃんでも力になれる事があると思うんです」

「それに…」と新八は苦笑して続ける。

「遼さんをあの人たちから守る事も出来ますから」
「新八くん…」

初対面で、素性もわからない人間に対して、当たり前のように「守る」と言い切れる新八に、遼は胸が締め付けられる。
遼はすくっと立ち上がると、ぺこりと頭を下げた。

「ありがとう。依頼、お願いします」
「はい。あ、依頼料って言っても、高額を要求したりしませんから。せいぜい、来週のジャンプ代くらいです」
「安っ!つか、店主の意向無視かよ!」
「本当は無料でも良いんですが…それだと遼さんの気が収まらないでしょう?」

そう言って照れたように笑う新八に、遼は「お金はちゃんと払うよ」と、鞄から通帳を取り出して机の上に置く。

「結構使っちゃって、残り少ないんだけど…」
「あのなー。子供の通帳に期待なんて…」

遼の通帳を開いて固まった銀時に、新八と神楽は首を傾げながら通帳を覗き込む。

「えーっと。いっ…!」
「凄いアル!0が6こもあるネ!」
「おまっ、こんな高額どうやって…って、あの仕事か」
「うん」

頷いた遼の頭を、銀時は苦笑しながらわしゃわしゃと撫でてやる。

「スゲェけど、これはちゃんと取っとけ」
「でも…」
「アホ。こんなに取ったら詐欺で訴えられるっつーの。それにさっき新八が言っただろ?」

銀時は通帳を遼の頭に乗せて「依頼料は来週のジャンプ代だってな」とにやりと笑って肩をすくめる。

「遼の為なら酢昆布代もいらないアル」
「ありがとう、みんな。あ、滞在中の生活費はちゃんと出すから。と言うか、出させてください」

そう言って笑った遼に、万事屋三人は少し驚いて、同時に微笑んだ。

「じゃあ風呂入って寝るか」
「そうですね─って、遼さんは何処で寝るんですか?」
「私と一緒に寝れば良いアル」
「いや、無理だろ」
「いや、無理でしょ」

銀時と新八の二人に突っ込まれ、神楽は「何だよチクショー!」とふて腐れる。

「僕が帰れば寝床は何とかなりますけど…」
「そんなの悪いよ。私、ソファでも床でも大丈夫だし」
「それは駄目だ」
「それは駄目ですよ」
「それは駄目アル」

異口同音に否定され、遼は目を瞬かせる。

「今日は僕がソファで寝ます。銀さん、くれぐれも遼さんに変な事しないで下さいよ」
「しねぇっつーの!」

新八に疑いの眼差しを向けられ、銀時はがなって否定する。

「遼さん、銀さんと一緒の部屋になりますけど、出来る限り布団は離しておきますから、何かあったら遠慮せず、すぐに、大声で呼んでくださいね」
「遼、嫌なら嫌って言った方がいいアルよ」

多少…かなり銀時に悪意と偏見を持った意見ではあるが、新八と神楽が本気で心配してくれているのがわかって、遼は「ありがとう」と言って微笑む。

「でも、心配しなくても大丈夫だよ。銀ちゃん「遼みたいなガキに興味ない」って言ってたから」
「はぁ?!いつ俺がそんな事…」
「覚えてないの?」

首を傾げる遼に、銀時は何度も頷く。

「昔「大きくなったらお嫁さんにして」ってお願いしたの…覚えてない?」
「えっ、あーその、何だ…あれがだな…まぁつまり、所謂一つの〜」

どもる銀時に、新八と神楽は「呆れた」と言わんばかりに大仰な溜息を吐く。

「覚えてないなら素直に謝ったらどうです?
土下座でもして」
「女に告白させておいて忘れるなんて、一遍死んだ方が良いアルネ。このクソ天パ」

清々しいほど殺意を込めた言葉を、新八と神楽は笑顔で銀時に告げる。

「何年も前の事だろーがっ!んなの一々覚えてられっかっつーの!俺は今を生きてるから良いんだよ過去の事は!」
「逆切れアル」
「本当、みっともないですよね」
「し、新八くんも神楽ちゃんも、そんなにムキにならなくて良いよ。「お嫁さんにして」なんて、本気で言ってたわけじゃないし」
「「「………」」」

遼の痛烈な一言に、万事屋三人は揃って固まる。

「何か俺、涙出てきた」
「まぁまぁ。フラれるのはいつもの事ネ」
「そうですよ。それに、銀さんだって忘れてたんですから」

慰めなんだか傷口をえぐってるんだか分からない言葉を二人に掛けられ、銀時は更に落ち込む。

「えーっと…」

何だか収集のつかない事態に陥っているのを感じた遼は、頬を掻いた。

「取り敢えず、今日の所は過去の銀さんを信じましょう」
「仕方ないアル。それより遼はもうお風呂に入ったアルか?」
「まだ、だけど…」
「だったら私と一緒に入るヨ!狭いけど、遼と私なら入れるネ!」
「あの、でも…」

何故か躊躇う遼に、銀時は「後が詰まってるんだからさっさと入ってこい」と二人を促す。

「わかった。じゃあ、一緒に入ろうか」
「キャッホーイッ!男共、覗くんじゃねぇゾ!!」

神楽は銀時と新八を威嚇すると、タオルと寝巻をもって揚々と遼の手を引く。

「わっ、神楽ちゃんちょっと待って」

遼は慌てて着替えの入った鞄をひっ掴み、神楽に引き擦られるようにして風呂場に向かった。
脱衣場に着くなりさっさと服を脱いで風呂に入る神楽の姿に苦笑しつつ、遼もいそいそ服を脱ぐ。

「遼ー、早く来るアル!」
「うん」

神楽に急かされた遼は返事をすると、体にタオルを巻きつけて風呂場の扉を開けた。

「お待たせ」
「あーっ!女同士で隠すのは無粋ネ!今すぐ取るアル!」
「え、でも…」

躊躇する遼に、神楽は表情を曇らせて「やっぱり私と裸の付き合いがしたくないアルね…」と、露骨に落ち込む。

「違っ…!そうじゃないの…そうじゃなくて…」

遼はぎゅっとタオルを握り締めると、少し困ったような顔で「銀ちゃん達には内緒ね」と神楽に頼んで巻きつけていたタオルを取って素肌を晒した。

「───っ!」

言葉を失った神楽に、遼はただ悲しそうに「心配掛けたくないから、ね」と言って微笑む。

「わかったアル。でも、それ大丈夫アルか?」
「うん。もう五年以上前だからね。見た目は悪いけど、痛みも無いし」
「でもこんな……」
「ありがとう、心配してくれて」

落ち込む神楽の頭を撫で、遼はかけ湯をして湯船につかる。

「いいお湯だね〜」
「……遼、聞いてもいいアルか?」
「だめ。教えちゃうと、巻き込んじゃうから」
「そんなの……」

今さらだという神楽に、遼は少し困ったように笑い「銀ちゃんにバレたら怒られちゃうから」と戯けてみせた。

「大丈夫だよ、神楽ちゃん。本当に全部、もう治ってるから。ね」

神楽が知りたいのはそんなことでは無いとわかっていたが、遼は「この話はこれでお終い」と言って神楽の頭を撫でる。
これ以上は無駄と悟った神楽も「わかったアル」と湯船に頭まで沈み込んだ。

「ごめんね。ありがとう……」



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