銀色の人。

□【幕府特別武装警察真選組】
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多分これは最良の策であり、最善ではない。







【幕府特別武装警察真選組】







いつもは賑やかな道場が、今は耳が痛くなる程に静まりかえっている。
心音さえ憚られるようなその空間で、遼は竹刀をゆっくりと降ろした。

「これで良いんでしょうか?」

遼が近藤を振り返って首を傾げると、道場内の緊張が解けて方々から声が上がる。

「嘘だろ」
「まさか、女……の子に?」
「切腹ものじゃ……」

俄に騒がしくなった道場に、遼は目を瞬かせて辺りを見回し、不安げな表情でもう一度近藤の方を見た。

「あーゴホン。お前ら、静かに…」
「つうか、マジで隊長レベルなんじゃねぇ?」
「うっわ、俺勝てる気しねぇよ」
「でもちょっとイイよな〜可愛いし」
「だよな〜、腰のラインとか最高」
「美少女の袴姿はやっぱり最強だよな!」

威厳のある声を出してみた近藤を無視して、隊士達は休み時間の女子高生の如くおしゃべりに興じる。

「ちょっ、皆、俺今から良い事言うから!聞いて!」
「剣持った時のギャップもソソるよなぁ」
「黒髪美少女萌えーっ!」
「えっ、ちょっと、聞いてる?
局長話すよーっ!カッコいい事言っちゃうよーっ!!」

近藤が大声を張り上げて注意を促すものの、誰一人として聞いちゃいない。
業を煮やした土方が、苛立たしげにがりがりと頭を掻いて、地獄の底から響くような声を出した。

「そんなに切腹してぇのか?」

途端、隊士達は借りて来た猫のように畏まり、大人しくなる。

「ちっ。聞こえてんじゃねぇか」
(凄い。流石鬼の副長土方十四郎…)

静まりかえった道場に、遼は感嘆の溜息を吐く。近藤はそれを見計らって咳払いをすると、姿勢を正して遼を見据えた。

「えー神武遼くん。十人斬りご苦労」
「はい」
「我が真選組は君を…」
「オイ近藤さん。まさか、歓迎するなんて言うんじゃねぇだろうな」
「トシ…お前だって見ただろう?」

困ったような、呆れたような顔で溜息を吐く近藤に、土方は不機嫌極まりない顔と声で反発した。

「あの程度、探せば幾らでもいる」
「お前なぁ…」
「でしたら!」

嫌な流れになりそうだと感じた遼は、声を張り上げてずいっと二人に歩み寄る。

「でしたら、隊長格の方と手合わせを…否、仕合いをさせてください!」
「なっ!」
「ほォ…良い根性じゃねェか」

遼の申し出に、土方は満足そうに唇を歪ませた。

(ううっ、何でこの人瞳孔開きっぱなしなのよ…恐すぎる)

土方の睨みに心中怯えながらも、遼は気丈に睨み返す。それが土方の加虐心を一層駆り立てた。

「いいよな、近藤さん」
「…いいのか、遼ちゃん?」
「はい」

心配そうに見上げてくる近藤に、遼は「無理だと思ったら降参しますから」と、苦笑して答える。

「そんじゃあ、ヤルか」
「あの、その前にお願いがあります」

隊士から竹刀を受け取った土方に、遼は遠慮がちに申し出る。

「私が勝ったら、無条件で入隊を許可してください。負けた場合、今後一切真選組に関わらないことを誓います。それから、私が十人斬りをした事も口外しません」
「負ける気はねぇって口振りだな」
「私は絶対、負けません」

遼は竹刀を握る手に力を込め、目を閉じて深呼吸をする。土方は黙ってその様子を見ると、喉の奥で笑った。
それを見ていた沖田が、楽しそうな声で二人に尋ねる。

「勝敗はどうするんでィ?」
「あ、えっと、どうしましょう?」
「どっちかがぶっ倒れる迄で良いだろう。んだ、その不満そうな顔は?」

遼が露骨に嫌そうな顔をしているのに気付いた土方は、睨みを効かせる。

「それだと手加減が出来ないじゃないですか」



………
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