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□もし、最後に願いが叶うなら私は貴方の名前を呼んでみたい
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忍務で怪我をして助けてくれたのは声が出ない女性だった。
周りの村人は気味悪がっていたようだが、彼女は凛とたくましく、綺麗な女性だった。
忍者に「また今度」なんて可笑しいけど、彼女にはどうしても会いたかった。
それは、僕の一目惚れだった。
それから僕は、時間を見つけては名無しさんさんの家へ足を運んだ。
声が出ない彼女だが、表情は豊かで、とても静かに綺麗に笑っていた。

そんな彼女は病に犯されていた。
少しずつ弱っていく彼女を僕はどうすることも出来なかった。
珍しい薬草や、効きそうな薬を調合しては彼女に飲ませてみたが、どうする事も出来ずに僕は名無しさんさんの最後を看取った。
泣き虫な僕はポロポロと涙を零すと、「泣かないで」と笑って「伊作さんありがとう」そう口を動かし、名無しさんさんはゆっくりと眠りについた。

彼女のお墓を作り、家の中を片付ける。
すると、彼女の遺作が出てきた。

それは、声の出ない少女の話。

声の出ない少女は、両親に先立たれて孤独だった。
だけど、たった一人彼女を愛してくれる少年がいた。
幸せに過ごした幼少期はあっという間に過ぎ、声の出ない少女はある家に嫁ぐ事になった。
そこは、戦いの耐えない国。もうこの村には戻ってくる事はおろか、生きていくのも困難な所だった。
最後の夜、少女は家を抜け出しある場所へ向かった。
村はずれにある古い神社。そこには天狗が住んでいて、ある物を渡せは願いを一つ叶えてくれると言う伝説があった。
少女はそこで、声にならない声で天狗に呼びかけた「どうか私の願いを叶えてください。」
風は舞い上がり、大きな影が上空に浮かぶ。
少女の願いは届けられた。
少女は少年の家まで走る、彼を起こし月を眺めながら少女は口を動かした。

「伊作さん今までありがとう、お慕い申しておりました。」

彼女の声は透き通る綺麗な声で、月明かりが少年少女を照らしていた。

それは、最初で最後の少女の言葉でした。
次の日、少女は嫁ぐことなく亡くなりました。
その顔はどこか嬉しそうでした。

天狗に渡すある物とは「命」で、少女の願いは・・・

「少年の名前を呼ぶ事。」

少年と会えなくなる前に、彼女は少年の名前を呼んで死んでいった。
もし最後に願いが叶うなら、それは貴方の名前を呼ぶ事。


読み終えるころにはすっかり日は暮れて、月明かりだけが僕を照らしていた。
涙が溢れて止まらない。
彼女も、名無しさんさんも僕と想いは一緒だったんだ。
だけど、彼女は自分の最後を分かっていて、気持ちを伝えなかった。
そして、この作品は彼女の願い。

「名無しさんさん、僕も貴女のことが好きです。」

過去形ではなく、今も貴女のことが好きです。

「伊作さん、ありがとう。大好きですよ。」

それは透き通った綺麗な声。

「名無しさんさん!!」

薄く光ったそれは静かに笑っていた気がした。


もし、最後に願いが叶うなら私は貴方の名前を呼んでみたい。
貴女の声は僕に届きました。
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