企画モノ

□その名を呼ばないで
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「先生!フェレス先生!!」

「おや?天川さん、どうしましたか?」

世界史の担当のフェレス先生。
私の好きな人。


その名を呼ばないで

夏の課外授業は自主参加のため、殆ど生徒はいない。
クーラーの聞かない教室は、36度と人の体温と同じくらいの気温となっていた。
窓から時より吹く風が心地よい。

黒板に綺麗な字で、ツラツラと読解不能な言葉がドンドンと連なる。
日本語のはずなのに理解が出来ない。
だけど、世界史が一番好き。
不順な動機かもしれないが、少しでも先生の目に留まってほしくて、頑張って勉強した。
その努力がテストの点数と比例しないのは悲しい現実だけど。

「では、今日はここまで。質問があるものは後ほど職員室に来るように。」

グーッと体を伸ばし、帰る支度をする。
ふと、先ほどまで先生が居た教卓を見ると、本が2冊置きっ放しになっていた。
ピンク色のブックカバーの本はすぐ先生の物だと分かった。

話すきっかけができ思わず頬がほころぶ。
しかし、職員室に着くと先生は会議らしく席を外していた。
ため息を心の中で吐き、先生の机の上にそっと置き帰路についた。

次の日学校へ行くと先生に声を掛けられた。

「天川さん、昨日はありがとうございます。助かりました。」

「い、いいえ。・・・どうして私だと分かったんですか?」

職員室には誰も居なかったのに。

「貴方が職員室から出るところを見たんですよ。机の上には忘れていた本が置いてありましたので天川さんが届けてくれたのだとすぐ分かりました。」

あと、コレをっと渡されたのは白いブックカバーがしてある本。

「この前一緒に置いてあった・・・。」

ピンクではないもう一冊の本。

「私の授業をを真面目に受けている天川さんにご褒美です。」

トクンっ

心が跳ねる。

「あ、ありがとうございます。」

「読んだらぜひ感想を聞かせてください。では。」

それから私はよく先生に本を借りに行くようになった。
ファンタジー、ミステリー、歴史小説など様々なジャンルの本を貸してくれた。
恋愛小説だけ除いて。
気がつけば3月。
卒業式が近づいてきた。

「これで本の貸し出しも最後ですね。」

白いブックカバーのされた本を渡される。

「寂しいですね・・・。まだ先生の生徒で居たかったです。」

半分嘘の半分本音。
生徒でもなんでもいいから先生の傍に居たかった。

「いつまで経っても天川さんは私の生徒ですよ。」

嬉しいけど、チクリと胸が痛くなった。

「この厚さだと卒業式ぐらいにしか返しに来れませんが、大丈夫ですか?」

「構いません。ただ、その日は職員室が少し騒がしいので、教材室まで持ってきてもらえますか?」

「はい。では、先生さようなら。」

「はい、さようなら。お気をつけて。」

先生が最後に貸してくれたのは恋愛小説だった。
淡く切ない恋心。
・・・私と先生みたい。
ラストでは2人は結ばれ夕日の中キスをしていた。


卒業式、私は白いブックカバーのされた本と、今までのお礼にとクッキーの入った袋を持ち教材室へ向かった。

トントン

「失礼します。先生?いますか?」

「どうぞ、鍵は開いてます。」

「先生、本ありがとうございました。
初めて恋愛小説貸してくれましたね。」

本とクッキーの入った袋を先生に渡す。

「おや、ありがとうございます。本の感想教えてもらっていいですか?」

どうぞ、掛けてくださいと、ソファーに腰をかけた。

「切なかったです。なんだか・・・、やっぱりなんでもないです。ラストは2人も結ばれてホッとしました。写生も綺麗でした。」

私と先生は結ばれないんだ。
似ているだけど一緒ではない。

「歯切れが悪い、気になりますね。」

「い、いや、大したことじゃないですから。」

「私は、まるで天川さんと自分みたいだと思いましたよ。」

トクンっ

「先生?」

「織姫、名前で呼んでくれませんか?」

「メフィストさん。」

「生徒の貴女に言うのも可笑しいですが・・・。これからもその本みたいにこれからも一緒に居てくれませんか?」

「はい、先生。」

「もう、先生は終わりです。」

夕日が差し込む教室でキスをした。



その名を呼ばないで
(苗字で呼ばれるたび胸が痛んだ。)
(先生と呼ばれるたび悲しくなった。)
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