企画モノ
□香りと共に
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「獅郎さーん!やっほー!」
ピンクと茶色の花を持ち、彼が眠る墓石へ手を振る。
「この前桜が咲いてたと思ったら、もう秋だよ?早いね〜。」
ハハハ、っと私は笑う。
貴方が居なくなってから初めての秋。
無我夢中に仕事をしていた。
貴方の事を思うと胸が張り裂けそうで・・・。
ただただ、貴方の死から逃げるように仕事をしていた。
受け入れてたつもりだったんだけどな?
「最近、燐が獅郎さんにそっくりなんだよー?雪男は少し溜めすぎかな?真面目すぎて獅郎さんの息子か疑いたくなるよ〜。」
彼がゆっくり眠れるようにと、お墓の周りを掃除しながら、彼の子供達の報告をする。
「ほら!見て〜コスモス!ピンクとか野原に咲いてるのしか知らなかったけど、この茶色いの!チョコレートコスモスって言うんだって。チョコレートの匂いがするんだよ?不思議だよね〜。」
両手に抱くコスモスの花束からは、ふんわりと花とは思えない甘い香りがする。
「獅郎さん、私もう貴方から逃げないよ。
決めたんだ。」
それは彼との決別ではなく、彼の意思と一緒に歩むこと。
貴方との恋はココで終わりだ。
ちょっとだけ強く抱いた花束の匂いを忘れないように記憶と一緒に心に閉じ込めた。
「・・・よし。」
そっと、彼のお墓にコスモスを置いた。
彼への愛情は甘い香りと共に終わりを告げた