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□生きる理由を
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あー凡ミス・・・。
ちょっとだけ気を取られたわ。
左肩が焼けるほど痛い。
そりゃ、刀で切られれば当たり前のことか。
毒は無いみたいで良かった。
私を切った本人は既に息絶え地面に這い蹲っている。
今日の忍務はこれで終わりだ。
早く、この巻物組頭に届けなきゃ・・・。
踏み出す足はもうふらふらで、こりゃ貧血だわと苦笑い。
城外へ抜け出し、森の中を進む。
チラホラと人の気配・・・。
そう言えばここは忍術学園の生徒がよく実習で使っていたな。
一つの気配が猛スピードで近づいてくる。
見つからないように物陰に隠れる。
「・・・血の匂いがする。」
(犬かよ・・・。)
それは暴君と言われる七松小平太だった。
あれに見つかると勝負とか言われかねない。
気配を消し彼の去るのを待つ。
「・・・!!長治か、今行く。」
矢羽音が飛んできたのだろう。
彼はすぐ闇へと消えてしまった。
「行ったか・・・。さてと・・・あ、」
立ちくらみのままバランスを崩し地面へ真っ逆様。
受け身とれるかな?けど、力入らないから何本か折れるな。え?そうすると帰れないじゃん。あー、ちょっとやばいね。
一瞬の脳内会議。
結論は・・・
「まぁ、いいか。おやすみなさい。」
きっと誰か巻物は見つけてくれるだろう。
今は重力に身を任せ、夢の中へと落ちることにしよう。
「ーーー!!」
あ、誰かの声がした。えーっと誰だっけ?
脳にも血が回ってないんだな。
ごめん、今は寝かせて。
目を開けると、天井が少し開いていた。
「どこ?」
「僕の部屋です。名無しさんさん。」
「・・・あ、伊作君。」
体を起こすと肩に激痛。
眉間に皺が寄る、彼は慌てて私を布団の中へと戻す。
「まだ寝ててください!!肩だけじゃなくて熱もあったんですから!僕がいなかったら名無しさんさん死んでたんですよ!?」
すごい勢いで怒られる。
あぁ、これが保健委員長黒伊作・・・。
「・・・僕の説教が身に染みてないみたいですね?これ、新薬なんですが名無しさんさん試してみます?」
ニコリといつもと違う笑みを向けられる。
「・・・丁重にお断りします。」
「なら、もう少し寝ててください。僕は水換えてくるんで。」
立ち上がり彼は部屋を出て行ってしまった。
部屋はほんのり薬品の匂いと同室の彼のだろうか大鋸屑の木の匂いがする。
あ、巻物!!
首と目を動かし自分の持ち物を探す。
「巻物なら雑渡さんが持っていきましたよ?」
ちょうど部屋に戻ってきた彼が捜し物の在処をご丁寧に教えてくれた。
・・・はぁ?組頭が?
安堵と共に襲ってきたのは疑問と呆れ。
巻物だけじゃなくて私も連れていってくれれば良かったのに。
「雑渡さんは名無しさんさんを連れて帰ろうとしましたよ?」
「ナチュラルに私の脳内会話に入ってこないでくれる?」
「だけど僕がそれを止めたんです。」
「無視ですか?・・・なんで止めたの?」
「だって、帰ったら名無しさんさん無理してまた忍務に行くでしょ?雑渡さんが止めても。」
・・・おっしゃる通り、自分のことなんて二の次。
私が出来るのは人殺しと盗みごとと・・・忍務が出来ない私なんて役に立たないんだ。
「そんな悲しいこと言わないで下さい。」
ぎゅっと握られる手。
「貴方が傷つくと僕は悲しいです。僕だけじゃない雑渡さんだって悲しみます。」
悲しいの?
彼の顔を見ると頬に涙が伝っていた。
「君は綺麗な涙を流すんだね。
ありがとう、私なんかの為に泣いてくれて。」
「私なんかとか言わないで下さい。
僕は名無しさんさんだから泣くんです。」
握っている手に力が入る。
「私の存在意義なんて虫より無いよ。」
ヘラリと笑う。
パチンと乾く音と頬の痛み。
「僕が貴方を必要としているんです!
僕だけじゃない、タソガレドキのみんなだって貴方を必要としている。お願いだから少しは自分を大切にして下さい。」
流れる涙は私の心に溜まっていく、
チクリチクリと胸が痛む。
「名無しさんさん、僕は貴方が好きです。
だから、貴方も僕を好きになって下さい。」
そうすれば貴方の言う存在意義ができるでしょ?
悲しそうに言う彼の頬に手を伸ばす。
「いいのか?私で?」
「名無しさんさんじゃなきゃダメなんです。」
「わかった。私は今から君のために生きよう。伊作。」
「名無しさん・・・。」
交わす接吻は契約のように、
交わる視線は慈しむように、
刻む鼓動は貴方のために。
生きる理由を
それは貴方のため
→おまけ