短編
□あの夏、僕らは×××
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8月15日の午前12時半
確かそれくらいの時間のこと
俺とパートナーの名無しは早乙女学園の近くの小さな公園で休憩をしていた
ついさっきまで歌の練習をしていたんだが名無しが『少しは休みなさい!』と言ってきたのでしぶしぶこうなった
…とはいえ特にすることもないから名無しとただただ駄弁っているのだが
「本当に無駄に天気良いな……眩しすぎる…っ、病気になりそうなくらいだぜ……」
『あはは、確かに!!
…でもまぁ、私夏は嫌いかなぁ』
友千香や春歌と飼っているらしい猫のクップルを撫でながら名無しは急にそうふてぶてしく呟いた
しかし俺と目を合わせるとすぐにいつも通りの笑顔に戻る
その笑顔に俺は妙に安息を覚えた
ニャア…
…とそこで突然名無しの膝の上にいたクップルが一鳴きしたかと思えば軽々と名無しから逃げ出してしまった
『あっ…クップル待って!』
そう言って名無しもクップルの後を追う
…しかし俺はそこで気づいてしまった
名無しの走り行く先の信号がチカチカと青から赤に変わろうとしていることに
「名無し、危ねぇッ!!!」
俺の叫びも虚しく…
信号はまるで名無しを待っていましたかと言うように真っ赤に変わった
キィイイイイイッ!!!!
まるで絶叫のような物凄い音とともにバッと通ったトラック
そいつが名無しを飲み込んで引きずってぐちゃぐちゃに鳴き叫ぶ
噎せかえるような紅色の血飛沫と名無しの香りが混ざりあい俺の鼻を掠めて、その気持ちの悪さに思わず嗚咽が走った
もう、言葉すらでない
「(嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だッ!!)」
だってさっきまであんなにピンピンしてたじゃねえかッ!
太陽みたいな笑顔でニコニコ微笑んで……なぁ、名無し!!
「嘘じゃないよ」
そこで突如俺の脳内に不思議な声が響き渡り、思わず目を見開いた
ハッとして後ろを見るとそこにいたのは透明無色な空気のモヤの中に浮かび上がる人のような影
ソイツは俺の方を見てずっとニタニタと笑っている
「これは嘘じゃない」
「…………ッ」
何故だかその言葉が酷く俺の胸にのし掛かってきた
ふと上を見上げるとそこには無限に広がっている夏空の水色
でもそれがぐちゃぐちゃのアイツから流れる液体と正反対すぎて…逆にそれを彷彿とさせて……っ
そこで俺の意識はセミの音と共にフェードアウトした…
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