短編

□子守唄は君の叫び
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キィ…と俺が手を触れずとも開けられる我が家の扉
目の前に並ぶのは名前も知らぬメイドと執事たち

見慣れた光景は変わることなく俺を出迎えた







「「「お帰りなさいませ、真斗様」」」


「………あぁ」







俺はメイドたちの言葉に適当に相づちをうつと上着を預けてそそくさと、ある部屋に向かう……自室ではない

俺が「アイツ」のために作らせた「アイツ」と俺だけの部屋




高鳴る鼓動を強引に押さえつけて、俺は早々と足を進めた



そうしてたどり着いたのは大きな扉があるだけの真っ白な部屋
…イヤ、部屋と呼ぶものなのかさえも危うい

もちろん扉の先にもまた別の部屋があるのだが、それには鎖が何重にもかけられている上に南京錠もしっかりとつけられており、侵入を固く拒んでいる


そのドアに俺はゆっくりと手を這わせ、中にいる愛しい彼女の名を呼んだ







「…名無し……」






すると彼女がドアにもたれかかっていたのだろう
キシ…っと扉が軽く軋んだ音がする

かと思えば中から聞こえてきたのは……









『ア゙ァアアアァアアァァアアッ!!!!!』




声にならない絶叫だった








ドンドンドンドンッ!!

さっきまで静寂に包まれていたこの場所に突如大きな音が響く
扉をむちゃくちゃに叩く音

あぁ…そんなに叩いたらせっかくの綺麗な手に傷がつくぞ?








『出してッ、出して出してぇッ!!!』




彼女の懇願するような叫び
その声はとうの昔に枯れてしまっている

だが俺にとってはそれすら興奮材料にしか過ぎなかった













『お願いっ…ここから出してぇッ!!』

「駄目だ、それに初めに約束を破ったのはお前だ」


『もう破らない!約束ちゃんと守るからッ…だから出してぇええ!!』









そう言ってまた出したら何をするか分かったもんじゃない


最初の約束で俺は名無しに「他の男に触れるな」と言った
なのにコイツは怪我をした一十木の手当てをしていたのだ


次の約束は「俺以外の男と話すな」
だがこれも破った…俺がいない間に月宮先生と仲むつまじく話し込んでいた


そして「外に出るな」
これも駄目だった……あの時、隙をついて外に出なければ今みたいに閉じ込めたりはしなかったんだがな





本当に困ったやつだ
お前はここで俺だけを思い、俺だけを見ていれば良いものを…



だから俺は名無しを監禁した

食料も水も満足に与えず、部屋の中には窓すらない
本当の漆黒の暗闇

しゃがれた声には既に生気など宿っていない

あるのは…絶望












『お願い…だれかっ、助け……レン、レン…ッ』



「…………っ!」


『レン…助けっ、助け「黙れッ!!!!」……ヒッ』








何故だッ!!!どうして神宮寺の名を呼ぶ…!?

今名無しの前にいるのは俺だ、聖川真斗だ!!




お前は俺の名を呼び、俺だけに泣き叫んで…そして俺のために死ねばいい


そうだよな……名無し


…血の繋がりよりも深いものなんて…ないだろう?

















『出してぇええええッ!!
お願い、お兄様ぁあああ!!!』

















子守唄は君の叫び声



(だって俺らは…たった二人の兄弟だもんな)(なぁ……名無し?)



end
 

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