短編

□いちばんきれいなこわしかたで
1ページ/1ページ







僕と翔ちゃんは双子の兄弟

二人は小さい頃から付かず離れずいつも一緒で、それは誰にも切り離すことはできなかった

でも、そんな僕らの間にも唯一入れる存在がいる




それが……





『薫、早く来ないと置いてくよ!』


「待ってよ、名無しちゃん!!」







君なんだよ、名無し



名無しは僕らの隣のお家に住む、同い年の女の子
所謂、幼なじみってやつ

小さい頃から翔ちゃんとケンカばっかしてたけど、近所の子に苛められた僕を助けてくれたりもした…強くて優しい子







『ていうか…翔はどこなの?』


「翔ちゃんならまだベッドの中だよ」

『…あんのチビ助、ちっとも成長しないんだから……!』





名無しはそう言いながら不機嫌そうに顔を歪ませる

しかしその足は先には進もうとせず、一向に動く気配を見せない







「ふふっ……」


『…な、なに笑ってんのよ、薫』


「いやぁ、なんだかんだ言ってやっぱり名無しちゃんは優しいなぁって」


『な、ななな何恥ずかしいこと言ってるのさっ!?』





僕の言葉に耳まで真っ赤に染め上げる名無し

これもいつもの光景




………でも





ガチャッ



「…悪いッ!待たせた!!」

『待たせすぎよ、このチビ!!』

「…なっ、お前だって対して変わらねぇだろうが!!」


「はいはい、ケンカはそれくらいにして…早く行かないと遅刻するよ?」





そんな僕らもあっという間に成長し…今日から新しい一歩を踏みだそうとしている






『本当、卒業式当日に遅刻とか洒落にならないから!!』

「翔ちゃんは夜更かしし過ぎなんだよー」


「うぐっ……」





そう、今日は中学校の卒業式

この日を境に翔ちゃんは東京にあるアイドル育成校の早乙女学園に、僕はその姉妹校に通うために上京するのだ


姉妹校は学園の近くだから僕と翔ちゃんは会おうと思えばいつでも会える



でも、名無しは……






『…三人での最後の登校で遅刻なんて、私はイヤだからね』



…名無しだけは地元の高校に通うことになった

東京と名古屋はそう易々と会いに行ける距離じゃない






「名無しちゃん…」

「……………。」





しんみりとした空気に包まれた僕たち


例え高校を卒業しても、すぐに会えるわけではない

翔ちゃんはアイドル、僕には医者という夢がある
どちらも長く険しい道のりだ








『…なんでアンタたちがそんなに落ち込んでんのよ』


「だって、名無しちゃんが……」





僕が名無しの言葉に反論しようと口を開けようとした


しかし、その瞬間にぎゅっ…と体に伝わる体温と圧迫感

見ると翔ちゃんと名無しの顔がすぐ近くにあって…そこでやっと、僕ら二人一緒に名無しに抱き締められているということに気がつく







『…二人がっ、そんな顔してると…こっちが泣きたくなるでしょうが…っ』


「名無し……」

「…泣いてるの?」


『まだっ、泣いて…な、いっ!』






名無しは唇を噛み締めながらそう強がってはいるものの、僕らの肩には確かに名無しの涙が零れ落ちていた



ふとそこで、同じように隣で抱きつかれてる翔ちゃんの顔を見るとそれは見るにたえないほど真っ赤で

情けないなぁ、なんて考えつつも……頭の隅では僕も同じ顔してるんだろうなって思う



だって…僕ら、二人とも…









『私たちは…っ、どんなに離れてても…ずっと幼なじみだからねっ…?』


「…そんなの、そうに決まってんだろ」

「うん…名無しちゃんと僕らはずっと幼なじみだよ」





名無しの頭を優しく撫でながら、彼女にそう言い聞かせるように言葉を呟く





だけど今の僕は冷静に見えて…


「(最後の最後まで幼なじみ、か)」


裏ではこんなことを考えていた




自分の吐いた言葉が自分を貫く
本当はずっと幼なじみなんて嫌だ

翔ちゃんと二人のものじゃなくて、僕だけのものにしたい





でも………




『うんっ、約束だからね!』




名無しの笑顔が見れるのなら、このままでも構わないとすら思ってしまうほど

僕は彼女に惹かれている。
















いちばんきれいなこわしかたで

(幼なじみという壁を壊せたら)(君の笑顔も今の幸せも守れるかな?)


end





++++++++


うたプリ夢企画サイト様
近くて遠い、』に提出させていただきました

ありがとうございます。


管理人:メリー

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]