Runaway train

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昨日リコにわざわざ選んでもらった淡いピンクのシンプルだが細かいデザインが愛らしいワンピースを纏い、鏡の前に立つ。
やっぱりこれ、やっぱり丈が短くないだろうか。リコは細いからどうってことないだろうけど、私には短い。なんかスースーする。
可愛らしい細工の髪留めで髪を前髪を緩くあげる。


「よし、」


頬を両手で叩けば我ながらいい音がした。
時計を確認すれば、待ち合わせ10:20、丁度いいんじゃないだろうか。
最低限の荷物を詰めた鞄を肩に掛け、玄関に向かう。


「いってきます」

*     *


待ち合わせ15分前。幸い先輩はまだ来ていない。男として女の人に先をこされちゃ立つ瀬がないし、かといって早く来すぎるのもどうかと悩み悩んだ昨日があったから、安所する。
と、3分程経っただろうか、聞き慣れた声がした。


「黄瀬くん!」


小さい体で、存在を主張するために大きく手を伸ばした先輩は、周りに決して埋もれない天性の可愛さがあるから誰もが振り向いている。
昨日メールでいっていた友人が選んだ服だろうか。長すぎず短すぎずのワンピースの丈にそそられない男などどこの世界にいるものか。友人、ナイスチョイス!
それを着ているのが先輩だから尚更だ。
と、周りの視線を気にしながらも笑顔でこっちに来た先輩、ゆらゆら揺れる髪が光に照らされて眩しい。


「私顔に何かついてるかな。それとも、やっぱりスカート短い?」

「いや、それがいいです。丁度いいです。てか、友達の人に選んでもらったんですか?」

「そうだよ。あの子は細いからいいかもしれないけど、私にはやっぱり…」

「似合ってるっス。可愛い」


そう頭を撫でれば、気持ちよさそうに目を細める先輩が、これまた可愛い。
と、周りの人が立ち止まってなにやらこちらを見て話していた。


「あ、あれ黄瀬涼太じゃない?」

「本当だ!それにあれ彼女?悔しいけど可愛い」

「あんたじゃ足元にもおよばないわね」

「分かってるわよ」


一部にはカメラまで構えている。この前はああ言ったものの、恋愛報道でもされたらちょっとやばいから、彼女の手をひいて足早にその場を去る。
そして、人気の無い路地裏に入って、ようやく立ち止まる。彼女には悪いことをした。


「すいません。迂闊でした」

「謝らなくていいよ。ちょっと疲れたけど、普段運動しないからだし。ほんと大変だね。変装しないと」

「そっスね。俺もしよっかなー」

「ちょっと遅いよ」


そう笑う彼女は何も気にしていないようだった。
やはり同業者だとよく理解してもらえて助かる。


「どうする?ネットから目撃情報広まっちゃってるかもね」

「面倒っスね。サングラスとか持ってくるべきだったなー」

「サングラスはいい案だね!」


我ながら浅はかだった。どこに行くかを気にしすぎて、周りの視線とか全く考えてなかった。
前の彼女までは、下校時にちょっと寄るか、相手の家に行くかだったからな、なんて過去を振り返れば、俺の家には絶対呼ばなかったことを思い出す。
今日確か家に誰もいなかったな、なんて。


「先輩、」

「ん?」

「今度行くときは帽子とかサングラスとかちゃんと対策とるんで、今日は俺ん家来ません?先輩も視線気になって楽しめないと思うんで」

「いいよ。やっぱり馴れてる子は違うねー」

「いや、俺女の子家に入れたことないっス」

「嘘ー」

「本当っスよ」


俺はそんなにプレイボーイなイメージが付いているのか、信じてくれない先輩は、先手を切って歩き出した。


「さ、案内して下さい」

「はい」


後ろから光を浴びる先輩ももう少し見ていたかったが、急かすのを断れる筈もなく、自然と手を取って家へと足を早めた。
11|03[逢い引き]

 

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