Runaway train

□7
1ページ/5ページ


あの日、俺がなまえちゃんに助けられ、道場に行った時のこと。なまえちゃんの父親の部屋へと入った俺は、ただの胡座さえ様になるその男を目の前にして、思わず息をのんだ。


「よく来たな。俺はみょうじ椿。なまえの父親で、この道場の師範だ」

「どうも、高尾和成ってるス」

「いいよ、そんなかしこまらなくて。ほら、正座とかいいから。胡座でいいから」

「あ、すんません」

「ほらなまえ、お前は外出とけ」

「え、私?」

「そ。男にしか出来ない話があるの」

「…はい」


若干冷めた目で部屋の外へと出て行ったアイツを見届け、正面に向き直る。
正直、初対面の感想は、細くてなんか弱そうで、俺のオヤジより遥かに若くて、何より、所謂イケメンの類いだということだった。


「おいおい、見取れるなよ。照れるじゃねぇか」


そう笑う姿に、なまえちゃんは確実に父親似なんだと思った。勿論、多少男らしさは抜かないといけないけど、目とか鼻とか、柔らかくしたらアイツそのものなんだもの。ちょっと笑える。


「なまえが次期師範だってことは、もう聞いたよな?」

「はい。いや、ちょっと信じられないんですけど」

「だろうな。アイツ演技結構うまいもん。でも、胴着着たら豹変すんだぜ、俺怖いったらもー」

「マジすか」

「ああ。でさ、次期師範になると思われる子は、男だったら中学上がるまで、女だったら継ぐまで、外部の人間に将来継ぐかもしれないこと、そもそも道場の子であることを、バレてはいけないという決まりがある」


女の方はさっき聞いた。でも、この場合ぶっちゃけどうでもいい、男の方の説明をわざわざ入れた点に関して、一瞬疑問を抱いた。だがすぐに、別に深い意味は無いのだろうと片付け、続きに耳をすます。


「だから高尾、お前は、一週間うちの道場に通ってもらう。お前が普通にしてたら、それ以降は何にもないから」

「…そ、それだけっスか?」

「ああ。だけど、友達にも家族にも、なまえの事は禁句。他の門弟と同じ扱いだ」


なる程。つまり、一回門弟にしとけば、今回のことももみ消すことができるって訳か。思ってたより随分軽い。そして優しい処罰だ。


「あと、話変わるけどさ」


そう構えていた俺に、椿さんは、あの意味深な言葉をかけた。

 

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ