Runaway train

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昨日の今日で、今日は撮影がある。私の都合なんて通用する筈もなく、私はしぶしぶながら現場へと入った。打ち合わせに入れば、いつも一番に挨拶を返してくれる筈の彼は今日は無言で無表情。撮影に入れば、それまでのあまり接触のないシーンの時はとりあえず無事に終えた。こんな心理状態が、撮影に影響してなければいいと思う。それ以上に、プロとしてそうであってはいけないのだ。


「##NAME4##ちゃん今日も絶好調ね」

「(そう見られてるのなら嬉しいけども…)そうですか?」

「そうよ。一段と集中できてるわ」

「…ありがとうございます!」

「休憩終わりまーす」

「あ、##NAME4##ちゃん次出番でしょ?頑張って!」


ばちこん!とウインクされたのには訳がある。これからのシーンはこれまでの接触なかったのが嘘の様に、いきなりキスシーンが入るという急展開。これが一番の山場と言っても過言ではない、ラストへと入る為の大事なシナリオ。


「はじめまーす」


スタンバイして、私の演じる渚の親友の台詞から始まる。渚の親友が、そんな過去を引きずる渚に対して思いのずれを感じる黄瀬くん演じる修一に対して、渚と今は亡きおばあちゃんとの約束を全て語る。そうして自分に対しての苛立ちを覚えた修一は、渚に愛を誓い、気を紛らわすように強引なキスをする、そんな話。


「そんなことも知らないで、渚を叱るなんてどういう了見?態度がでかいのよ!」

「…知らなかったんだからしょうがないだろ!俺馬鹿だし、優しくないし、察しれるわけねーよんなもん!馬鹿じゃねーの…渚も、俺もよー…」


何でだろう、黄瀬くんの演技がいつもと違う。悪いとも良いとも言えないけど、何かが違う。
腕を掴んで引き寄せられて、私は意識を取り戻す。待て私、これまで難なくやったじゃないか。あともうちょっと、ちょっとだから…。##NAME3####NAME4##は、


「修一…?」


――…みょうじ##NAME4##の代わりは、こんなんじゃいけない…!


「本当に馬鹿だよ…私達」

「ああ、俺らは馬鹿で、自分のことで精一杯。だから…周りのことなんか気にすんじゃねーよ」


顎を持ち上げられ、黄瀬くんと目が合う。みるみる近付いてくる顔に、何だか泣けてくる。


「(だめだ…だめだ、)」


ここはどう解釈しても泣くようなシーンじゃない。そんな失敗しちゃいけない。##NAME4##ならそんな失敗しない。


「(でもね)」


今だけは、なまえでしかいられないみたい。こんな形で、黄瀬くんと…大好きな黄瀬くんとキスなんて、嫌だ。
すぐに落ちてきたキスに、思いがぐちゃぐちゃになった私は、一筋の涙を零した。
 

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