Runaway train
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なまえがこの業界に入ったのは、たまたま中学の文化祭の劇を見た業界人にスカウトされたからだった。それからというもの、なんだかんだで毎回の仕事をこなしている。
瀬川千鶴、それが芸名だ。
今ではすっかり慣れてしまったその名を口に、扉をノックする。
「瀬川千鶴です」
「おお!入ってくれ」
高級感の漂う大きな扉を開け、恐る恐るながら部屋に入ると、これ以上ないくらいの笑顔ででむかえられる。
対するなまえは、笑顔を保つのに必死な訳だが、冷や汗が伝わるのは止められない。
「よく来てくれたな」
「はい」
扉前から動こうとしないこちらを分かってなのか、ゆっくりと近づいてきた監督は、いつもように、腰に手を回して来る。
(…ああ、これが嫌なんだ)
「ほら、顔をあげなさい」
「はい…」
撫で回すようにさらにお尻も通過した気持ちの悪い手は、太ももを嫌らしく撫でて、当たり前のように、スカートの中に手を忍ばす。
もう、なんで今日スカート履いてきちゃったんだろう。 そう考えても遅い。
「あ、あの…」
「ん?どうした…」
贔屓にしてやってるんだから、そう言わんばかりの目と目があう。
仕事の為、仕事の為、そういいきかせても、限界だった。
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いきなり連れて来られて、苛々気味に黄瀬が挨拶に来てみれば、扉越しに聞くに、いかにも中はそういう雰囲気。
廊下のソファで待つ彼女のマネージャーらしき女は、知らないふりを貫き通すつもりなのか、静かに読書中だ。
(どうする?開ける、か…。 )
正直、なるたけ早く帰りたい。
「も、もう…」
中から聞こえた泣きそうなその声に、選択肢は一つに定まった。